生物遺伝資源委員会と資源センター小委員会について
実験生物の多様な系統は生命科学の研究にとって不可欠のものである。さらに最近では、ゲノム研究など生物学の爆発的な発展によって、莫大な数の突然変異系統が体系的に作り出され、それを用いた遺伝子機能の研究が世界的に進行している。
このように増大する様々な生物系統の開発と解析、それらを保存して研究者の要望に応じて分譲する事業、そして増大する生物系統に関する情報を有効利用
する ためのデータバンク事業は、生命科学の基礎研究だけでなく、医学や農学などの応用分野でも極めて重要になってきた。
このような状況に対して、学術審議会学術情報資料分科会において報告「学術研究用生物遺伝資源の活用について」が出された(1996年6月)。この報告では「生物遺伝資源」を「遺伝子を基盤において取り扱う
学術研究用の系統生物、学術研究の対象となる野生生物及びそれらの生物の細胞・DNAを包含する」と定義し、これらの広範かつ効果的な利用のためにその所在情報・特性情報のデータベース化とネットワークの整備を
中心に提言したものである。このための体制作りの具体策の第1が、生物種毎の遺伝資源センターであった。主要な生物種毎に生物遺伝資源センターを整備し、各センターにおいては各生物系統の特性開発、維持保存、供給、データベースの構築の中心的な役割を果たすことが期待したものである。このため、各センターには
当該生物遺伝資源に関する小委員会を設け、関連活動の推進、検討をはかることとした。第2に、それらの 上部機構として生物遺伝資源委員会と系統情報データベース活動である。これは、わが国の生物遺伝資源の確保と活用に関して様々な学術的立場から総合的な検討・調整をすること、及び情報の総合的な収集発信の拠点作りを目的とするものである。
この報告などを受け、1997年度から、いくつかの大学において後述の資源センターが設置されてきた。国立遺伝学研究所においては遺伝実験生物保存センターを改組し、3つ生物種の資源センターの機能をもつ系統生物研究センターと生物遺伝資源委員会と系統情報データベースを運営する生物遺伝資源情報総合センターが設置された。
生物遺伝資源委員会はある意味では「遺伝資源事業」の国会であり、本来中央に置かれるべき性格のものといえる。 これを国立遺伝学研究所で運営することになったため、性格がわかりづらくなった面があるが、別図
に示すように、国立遺伝学研究所を管轄するものではなく、わが国の(特に) 大学等における遺伝資源事業全体を検討・調整するものである。
このためには遺伝資源事業の現状を把握し 現場の声を反映することはもちろんであるが、一方で、バイオサイエンスにおける遺伝資源事業の位置づけなど
大所高所からの将来計画策定が求められている。このような観点から、
別表1
に示すような様々な生物種の資源センター責任者や今後資源センターを作ろうとする関連研究者さらには他省庁の関係者を結集するとともに、関係する学識経験者からなる幹事会(ステアリングコミッティー)を設けて有機的な運営をはかることとした。通常の研究所委員会とは異なることもあり準備に手間取ったが、1999年6月に幹事会を開き、さらに同年10月に
全体会議を開催し、規約を決めると共に活動を開始した。今後は、委員会の目的でもある遺伝資源事業のあるべき 方向の検討、新資源センター設立の支援、などの活動が予定されている。
遺伝資源小委員会は各資源センターにおかれるものであり、各資源センター自体は所属大学等の概算要求によって設置されるものである。 したがって、その運営・規則は所属大学・研究所に依存するが、委員会の主務は当該生物種の系統保存事業が円滑かつ有効に進むよう情報交換や調査検討をおこなうことであり、このため
センター責任者と関連研究者で構成される。また、所在情報・特性情報のデータベース化も任務に含まれるが、これは後述のように生物遺伝資源情報総合センターの系統情報データベース事業の支援を受けて進められることが多い。
別表2
のように、これまでのところ、国立遺伝学研究所系統生物研究センターにマウス、イネ、大腸菌の資源センター及び小委員会が立ち上がっている。他大学では、オオムギ(岡山大学資源生物研究所)、ショウジョウバエ
(京都工芸繊維大学)培養細胞(東北大学加齢医学研究所)、カイコ(九州大学遺伝子資源開発研究センター)について資源センターが設立されている。
資源センターの設立には至っていないが、小委員会活動などセンター設立に向けた準備を進めている生物種としては、コムギ、メダカがある。
ゲノム研究や生物多様性・進化研究の発展に伴って、系統保存事業には新しい光が当てられようとしている。バイオサイエンスの大きな流れに対応すべく系統保存事業も、ダイナミックに変革していくことも重要である。各種センター・委員会活動がこれらの動きを加速し、よい方向に導くことが期待されている。
小原雄治
生物遺伝資源情報総合センター
国立遺伝学研究所