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  May 2015
Vol.11 No.5
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GAIN(大型類人猿情報ネットワーク)の紹介
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 じょうほう通信: <No.95> 免震サーバラックのご紹介
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GAIN(大型類人猿情報ネットワーク)の紹介

松沢  哲郎  (京都大学  霊長類研究所  教授)

チンパンジーは日本に現在319人いる。ゴリラは25人、オランウータンは49人である。彼らを1人、2人、3人と数えるが、あまり気にしないでいただきたい。彼らはヒト科に属するので、ヒトと同じように数えても良いだろう。それが霊長類学者たちの一般的な見解だと考えて、寛容にお許し願いたい。

人間を「ヒト科ヒト属ヒト」と言う。そのとおりだ。まちがいではない。しかし、そう言うと、1科1属1種の何か特別な生き物がいるようについ思ってしまう。それはまちがいだ。ヒト科は4属である。ヒト科ヒト属、ヒト科チンパンジー属、ヒト科ゴリラ属、ヒト科オランウータン属の4属である。

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チンパンジー属には、チンパンジーと同属別種のボノボがいる。同属だが、別種に分類される。つい3万年ほど前まで、ヨーロッパには同属別種の人類がいた。つまり、サピエンス人(ホモ属サピエンス種)とネアンデルタール人(ホモ属ネアンデルタレンシス種)の関係が、チンパンジーとボノボの関係だといえる。現在、日本には京都大学の熊本サンクチュアリに6人のボノボがいる。

写真:ボノボ  
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 「大型類人猿情報ネットワーク」の英文名称の頭文字をとって、GAINと称する事業をおこなってきた。ヒト科4属のうち、われわれ人間を除いた3属、つまりチンパンジー属、ゴリラ属、オランウータン属を「大型類人猿」と総称する。この地球には、数百万種とも数千万種ともいわれる多様な生命がいる。その中で、人間から見て最も近い存在が大型類人猿である。人間とチンパンジーのDNAの全塩基配列が解読されていて、両者の違いは約1.2%しかないことがわかっている。

進化の隣人である大型類人猿が、野生では絶滅の危機に瀕している。IUCN国際自然保護連合の指定する絶滅に瀕した種である。CITES(通称ワシントン条約)によって、国際的な商取引が禁じられている。したがって、日本が同条約を批准した1980年以降、野生からの輸入は途絶えている。日本の大型類人猿は、日本が保有する貴重な生物資源だといえる。

GAINは平成14年のナショナルバイオリソース事業(NBRP)の発足と同時にスタートした。ただし対象が、①きわめて人間に近い存在だ、②絶滅危惧種だ、ということがあって他のバイオリソースとは明確に異なる。そこで、「情報」という事業のもとで、日本の大型類人猿のデータベースの整備を進めてきた。ぜひこの機会に以下のサイトをごらんいただきたい。


 日本にいる大型類人猿の全個体が登録されている。人間でいえば、戸籍に相当するものが整備されている。だれが母親で、だれが父親で、生年月日もわかっている。つまり、今だれがどこの施設(動物園等)にいるのか、出生や死亡もリアルタイムに情報を得られる。 この10余年に及ぶ関係者の努力で、世界にも類例のないデータベースが構築された。

第1に、家系情報に加えて行動や性格や形態やゲノム情報まで解析が進み、開示されている。人間に最も近い存在だが、人間では不可能な私的情報を公開している。したがって、これらの個体に由来する非侵襲的な手法による資料、つまり毛とか尿とか健康診断時の採血などから、生物学的にきわめて貴重な情報を抽出し、研究の発展に寄与してきた。実際に、日本のチンパンジーの血液から全ゲノム解析が進み、iPS細胞が作られた。両親と子どものトリオゲノム解析も実施されている。

第2に、死んでしまった個体についても過去の記録にさかのぼって復元している。つまり、現在の個体の由来について歴史をたどって復元している。とくに家系情報というような付加価値が重要になる今後の生物学研究では、国際的に見てきわめて貴重なデータベースと言えるだろう。

第3に、英語による国際的な情報発信をおこなっている。日本語の情報が同時に英語にも翻訳されている。世界で最も進んだ大型類人猿のデータベースであり、ようやく米国もそれを真似してデータベース構築を始めた(ChimpCare)。したがって、全米に現在1741人のチンパンジーのいることがわかっている。しかし、日本のように1人ずつの戸籍の形には整備されていない。

写真:チンパンジー  
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 あまり一般に意識されないが、G7やサミットと呼ばれる先進国のなかでサル類がすむのは、日本だけだ。アメリカザル、ドイツザル、フランスザルはいない。しかし日本にはニホンザルがいる。霊長類とは、「人間を含めたサル類」のことで約300種だ。人間以外の霊長類は熱帯とその周辺にしか分布していない。中南米と、アフリカと、インド・東南アジアである。したがってニホンザルは人間以外の霊長類の北限に位置する。こうした自然の恵みを背景に、霊長類研究は日本が世界に先駆けて発信してきた。

日本の国際的にユニークな貢献のひとつが霊長類学であり、生物科学全体としてみても貴重な情報データベースがGAINだといえる。強みとしてもっているものをさらに活かす。そうした努力を今後も続けていきたい。


 じょうほう通信  <No.95>

免震サーバラックのご紹介




  生物遺伝資源センターは2014年11月に新棟に引っ越しました。その際、サーバラックを耐震から免震に変更したので、「免震サーバラック」についてご紹介したいと思います。

  地震対策では振動による被害を軽減する方法として、免震・耐震・制震があります。免震は揺れを免れる、耐震は揺れに耐える、制震は揺れを制御することを意味します。それぞれ価格・導入のし易さ・性能など一長一短あります。情報セキュリティと同じで、対策費用に上限はありません。そのため、J-SHIS(地震ハザードステーション)や全国地震予測地図から、今後発生する地震の大きさの目安を見積もり、対策を立てるのが良いと思われます。これによると、静岡県三島市で今後30年以内に震度6強以上の地震が発生する確率は26~100%となっています(図1)。また、一般的にハードディスクは震度5程度までの衝撃に耐えられると言われています。そのため、情報センターでは震度6強以上の地震が起きても、震度5程度までに揺れを抑えることを対策の目標としました。



1.  免震サーバラック
  免震サーバラックは地震の揺れと同期することで、サーバラック内で発生する振動を軽減します。今回は震度7程度の地震でも震度5程度まで軽減できる製品を選択しました。欠点はラックが揺れるため設置した以上の面積が必要なこと、10階以上では建物の揺れが大きくなり、建物の揺れと地震の揺れが、免震装置の許容限界を超えてしまうためです。また、装置によっては免震機構が複雑になるため、維持と壊れた場合の対応ついても配慮が必要です。
  情報センターが使用しているサーバ室は上記の欠点を克服できていたため、免震装置とサーバラックが一体化した免震サーバラック(図2)を導入しました。この他にも、免震装置のみで販売されている製品(現在使用しているサーバラックを再利用することができます)や、免震装置プレート式もあります(薄い板を2枚重ねたもので、これは他の免震装置と比べて、構造が単純で設置し易い利点があります)。
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図 1. 三島市付近で30年以内に地震6強以上の発生予測(J-SHISから引用)

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図 2. 免震サーバラック
 



2.  震度とGal
  免震・耐震・制震装置では、耐えられる揺れをGal(加速度の単位)で表記されます。Galで表記することで、より定量的に評価することができます。例えば震度5は、Galで表記すると80~250galとなります。震度6は250~400gal、震度7は400gal以上です。また、評価試験として阪神・淡路大震災がよく引用されますが、この時観測された最大加速度は818galと言われています。情報センターで導入した免震ラックは、この値まで対応できることが保障されています。参考までに、東日本大震災は2933galが計測されました。震度8は6000gal以上と設定されていますが、自然界では発生しないと言われています。
  今回導入した免震ラックでは、震度7(920gal)を震度5(200gal)まで低減できます。また、HDD装置は震度5強まで耐えられることから、大地震が来てもHDDを地震から守ることができると考えています。

(渡邉 融)