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  March 2015
Vol.11 No.3
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リソースセンター紹介  <No. 56>
NBRP研究用ヒト臍帯血幹細胞リソースの特殊性
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 じょうほう通信: <No.94> AmiGO 1.8から2へ
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リソースセンター紹介  <No. 56>

NBRP研究用ヒト臍帯血幹細胞リソースの特殊性

長村  登紀子(東京大学医科学研究所 附属病院 セルプロセッシング・輸血部  准教授)
 背景

ヒト臍帯血細胞は、「オギャー」と元気よく生まれた赤ちゃんの血液由来です。胎児由来の細胞であり、最も未分化な造血幹細胞を豊富に含むとともに、幼若な免疫細胞や間葉系幹細胞などの組織幹細胞も含むことから、再生医療、創薬研究、がん研究、免疫研究、感染症研究、遺伝学研究、環境医学研究など広く医学研究や生物学研究でも利用が進められ、ライフサイエンス研究の発展には不可欠のバイオリソースと考えられています。臨床的には、臍帯血は骨髄や末梢血幹細胞等と並んで種々の重症な血液疾患あるいは先天性免疫不全や代謝異常症等に対する造血幹細胞移植の細胞源の一つとして発達し、年間1,000例以上もの臍帯血移植 (世界一です!) が行われています。

この臍帯血移植を支えているのが、臨床用公的臍帯血バンクであり、連携した産婦人科で採取された臍帯血を臨床用公的臍帯血バンクに搬送し、そこで調製・保管して、移植が必要な患者さんに提供する体制となっています。但し、この臨床用公的臍帯血バンクでは臨床で利用率の高い細胞数の多い臍帯血のみを調製保管の対象としていることから、臨床用には適合しない臍帯血が、7-8割もあり、それらはバンキングの検討や研究用となり、それ以外は廃棄となります。

文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト(National BioResource Project; NBRP) 研究用ヒト臍帯血幹細胞バンク事業(以下、本研究用臍帯血バンクという)は、こうした臨床用公的臍帯血バンクの基準に満たない臍帯血を収集・調製・凍結保存し、理化学研究所バイオリソースセンター(理研BRC)を介して、「医学の発展のため」の研究を行う国内外の研究者に提供することを目的として構築されました。実際の提供の流れを図1に示します。

  Table 1
図1.臍帯血の提供の流れ
 
 提供細胞の種類と特性

本研究用臍帯血バンクが扱う試料が他のリソース試料と大きく異なる点は、ヒトのプライマリー細胞であること、使い切り試料であること、研究用臍帯血幹細胞バンクで一旦調製・凍結加工された試料であることです。表1に示すような種類の細胞試料を提供しています。研究の目的によって、利用する細胞を選ぶことができます。

  Fig. 2
表1.研究用ヒト臍帯血試料の種類
 

有核細胞試料は、臍帯血中の全白血球(WBC)を含んでいます。すなわち、造血幹細胞(CD34陽性細胞)、単核球(主にリンパ球と単球)および好中球などを含みます。臍帯血にHydroxyethylstarch(HES)という試薬を加え、HESと赤血球を重合させて赤血球をなるべく除き、それ以外の細胞を回収・濃縮して、凍害保護液を加えて、温度管理しながら凍結します。
凍結後は、他の試料同様に-197℃の液体または気相式窒素タンクで保管されます。この形状は、臨床用の臍帯血バンクと同様で、実際の臍帯血移植では、これを解凍して患者さんに移植します。

単核細胞は、主にリンパ球と単球からなりますが、この分画にCD34陽性細胞も含まれています。フィコールという試薬に臍帯血を重層して遠心することによって、比重に応じてできた単核球層を回収して凍結保管します。この細胞は、解凍後も扱い易く、幅広く利用されています。

CD34陽性細胞は、造血幹細胞の代表的マーカーをもった細胞です。抗体のついたビーズで純化した後に、凍結保管します。造血幹細胞移植の研究や血液分化の研究、再生医療分野ではiPS細胞のソースとしても注目されています。

 品質管理と倫理性の担保

本研究用臍帯血の品質管理は、研究にも影響する最も重要なバンクの任務です。母親への問診票、家族歴や分娩記録から、出産時に健常と判断された臍帯血であり、臍帯血の感染症の検査も実施しています。また細胞の種類によって、細胞調製方法の検討を行い、その品質基準を決めてから試料の調製を始めています。

また、ヒト由来の細胞ですから、どなたの臍帯血かわからないように連結不可能匿名化され、採取施設、研究用臍帯血バンク、理研BRCでの倫理性を担保して行っています。また、研究者にも研究を行う前に自施設での倫理審査承認を求めています。

 今後の利用拡大に向けて

2014年度に実施した利用状況調査において、本研究用臍帯血試料の最も大きなユーザーは、「医師」を中心とする医学研究者であり、全体の4分の3を占めていました。このことは、本試料がヒト由来細胞であり、比較的臨床に近い、医療に密接に関連した分野での利用が多いことによると考えられます。これは、NBRPのさまざまなリソースの中でもユニークな利用者層であると考えられます。一方で、ヒト細胞が入手困難な基礎研究分野での新たなご利用をお待ちしています。


 じょうほう通信  <No.94>

AmiGO 1.8から2へ



AmiGOとは、Ontologyを検索・閲覧・可視化することができるウェブアプリケーションでGene Ontology (GO) Consortiumによって開発されました。AmiGO は2014年3月からバージョン2の安定版が公開(※1)されており、以前の1.8(※2) とはユーザーインターフェースや、バックグラウンドのシステムが大きく異なっています。そこで今回は、バージョン2について紹介したいと思います。


最初にユーザーインターフェースに関するトピックとして、GOに関する用語 (Term)、アノテーション、遺伝子産物を検索する方法を説明します。

1. AmiGO2のページ(※3)にアクセスすると、大きな入力欄が用意されているので、そこに検索ワードを入力し「Search」ボタンを押します(図1)。


2. 「Ontology、Genes and gene products、Annotations」の中から検索対象を選択します(図2)。


3.  この例では、検索ワード「p53」に関連するTermと遺伝子または遺伝子産物間のアノテーションについて表示されます(図3)。

は入力した検索ワード、は検索条件、は絞り込み可能な選択肢、はページャー、は検索結果一覧となります。にはユーザーが自由に検索結果をフィルタリングするための選択肢が表示されますので、容易にユーザーが望む検索結果にたどり着くことができます。
 
Fig.1
図1. AmiGO 2の簡易検索
Fig.2
図2. 検索対象の選択
Fig.3
図3. 検索結果


次にバックグラウンドのシステムについて、簡単に触れたいと思います。これまでのAmiGO 1.8は、MySQLを使ったSQL技術を使用していましたが、データが50倍以上に増加し、複雑なクエリーが多くなったことで、様々な高速化テクニックを使用したり、データをキャッシュしたりして許容できるパフォーマンスを維持しており、サービスの提供が大変だということです。

そこでAmiGO 2からは、バックエンドのGOlrとフロントエンドのperl、JavaScriptから構成されるシステムに刷新されました。GOlrはSolrを使ってGOデータをインデックス化した検索サーバーであり、perl、JavaScriptを使ってGOlrにアクセスするようです。その結果、SQLで30秒程度かかかったテキスト検索クエリーが、0.3秒までに短縮されたものもあるようです。またJavaScriptのAPIも公開されています(※4)。

さらに技術的なコンセプトについて詳しく知りたい方は、The 13th Annual Bioinformatics Open Source Conference (BOSC 2012)で発表されたプレゼンテーション資料(※5)がありますので、参照してください。 この機会に一度、新しくなったAmiGOを使ってみてはいかがでしょうか。

∗1
http://amigo.geneontology.org/
∗2
http://amigo1.geneontology.org/cgi-bin/amigo/go.cgi
∗3
http://amigo.geneontology.org/
∗4
http://api.berkeleybop.org/
∗5
http://berkeleybop.org/document/bosc-2012-amigo-2
(木村  学)