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  July 2013
Vol.9 No.7
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 リソースセンター紹介 <No. 48>
NBRP ニホンザルの将来展望と最近の研究成果
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 じょうほう通信 <No.81>
データを可視化してみよう(D3.js編)
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 今月のデータベース 酵母の総合データベース
NBRP Yeast
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バイオリソース関連サイト
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 リソースセンター紹介 <No. 48>

  NBRP ニホンザルの将来展望と最近の研究成果

伊佐  正   (自然科学研究機構 生理学研究所 教授)


ニホンザルは、マカク属と呼ばれる中型のサルの一種です。チンパンジーやゴリラなどの類人猿を、侵襲を伴う実験研究に使うことは今後認められなくなるという国際的な趨勢の中で、実験研究に使われている動物の中で最もヒトに近縁な動物がマカクザルです。特にニホンザルは、日本国内の多くの脳科学研究者が研究に用いてきました。その理由として、「猿害」で捕獲されたサルが研究者に提供されてきたという経緯はありますが、それだけではありません。その性格が穏やかなことから実験動物としてハンドリングしやすかったことと、とても知能が高いことから高次脳機能の研究に適していると多くの研究者が感じていることもその大きな理由だとされています。野生由来の動物を実験研究に使用することは最早ほぼ不可能となった現在、NBRPによって研究用に繁殖されたサルを供給するシステムを立ち上げることができたお蔭で、現在の脳科学研究が滞ることなく進めることができています。

ニホンザルは、現在世界最北限の生息域を持つサルとして知られています。日本列島内で発見された化石の研究から、まだ日本列島が大陸につながっていた頃に中国大陸から朝鮮半島を介して現在の日本列島に移り住んで43-63万年経過したと言われています。つまり当時は朝鮮半島にもサルがいたということになります。それらは現在のアカゲザルの類縁種であったとされています。マカクザル各種の遺伝的背景を調べた研究によるとニホンザルはアカゲザルやカニクイザルなどの東南アジアに広く分布している他のマカク属に比べると遺伝的均一性が高いとされています。最近、興味深いことに、アカゲザルやカニクイザルなどはマラリアに対する抵抗力があるのに対して、ニホンザルにマラリアを感染させると劇症化するということが明らかになってきて、一部のマラリア研究者の間で注目されています。

平成25年度より、ニホンザルバイオリソースプロジェクトでは、これまで「神経科学」分野に限定してきた提供先をより広く生物学全般とすることにしました。また、これまでの提供体制が年一回で、融通が利きにくいというユーザー研究者からのご指摘に答えるべく、年2回の募集、3回の提供を行うこととしました。このようによりユーザーフレンドリーな事業の実施体制を目指しています。その結果、どれくらい応募者が増えるかについてはまだ予想がつきませんが、「ニホンザルと他のマカカ属を比較したい」という研究者の方々をはじめ、ニホンザルを是非とも使ってみたいとお考えの方は、生理学研究所霊長類モデル動物室(旧・NBR推進室、0564-55-7867, nbr-nips@nips.ac.jp)までご連絡ください。


最近の研究から: ウイルスベクター2重感染法を用いた経路選択的・可逆的伝達阻害法をマカクザルで確立、行動制御に成功
(Kinoshita et al. (2012) Genetic dissection of the circuit for hand dexterity in primates. Nature 487: 235-238.)

ヒトを含めた高等な霊長類は、手を巧みに動かす能力を身につけたことで、爆発的な進化を遂げたとされています。このように手指を一本ずつ器用に動かす能力は、大脳皮質の運動野が、筋肉を支配している脊髄の運動神経細胞に直接接続するようになったからと考えられてきました。一方で、ネコやネズミといった、より手の発達が原初的で不器用な動物では、大脳皮質からの指令は脊髄の介在ニューロンを介して間接的にしか運動神経細胞につながっていません。このような“間接経路”は我々霊長類にも残っていますが、何をしているのかはよくわかっていませんでした。このように進化の過程で残された“古い回路”が高等動物の脳でも使われているのか?それとも邪魔だから抑制されているのかについては、多くの議論がありましたが決着はついていませんでした。

今回、自然科学研究機構・生理学研究所の伊佐正教授・木下正治特任助教らと福島県立医大の小林和人教授・京都大学の渡邉大教授らの共同研究チームは、新しい二種類のウイルスベクターを組み合わせることで、特定の経路選択的に遺伝子を導入する方法(二重遺伝子導入法)を新たに開発し、この間接路を中継する脊髄介在ニューロン系(脊髄固有ニューロン:propriospinal neuron)を選択的に抑制することに成功しました(図1)。
すると、手指の巧緻運動は抑制開始後2日目に明確に障碍を受けることがわかりました(図2)。(ただし、他の経路による機能代償が速やかに起こり、5日目にはほぼ回復します。)これにより“間接経路”が、実は手指の巧みな動きを作りだすことに重要な役割を果たしていることが明らかになり、長年の論争に決着がつきました。

Fig.1
図1.脊髄固有ニューロン選択的なシナプス伝達の遮断
A) 脊髄固有ニューロンの投射先に逆行性ベクターHiRet-TRE-eTeNT-EGFPを注入し、細胞体がある中部頸髄の中間帯に順行性ベクタAAV2-CMV-rtTAV16を注入することで、脊髄固有ニューロンに選択的にウィルスを二重感染させた。
B) 二重感染しただけでは何も起きないが(左)、ドキシサイクリン(Dox)をサルが飲んでいる間のみ、Tetシステムによって破傷風毒素が発現し、シナプス伝達を遮断する(右)。
Fig.2
図2. ドキシサイクリンを飲んでいる間の前肢巧緻運動の障害
(グラフ)Dox投与後2日目に運動時間が延長し、失敗率が増加し、2日間続いた。
(写真)Dox投与前は、人差し指と親指を対向させた精密把持により餌をつまめているが、投与2日目では、うまく対向させることができず精密把持に失敗している。

今回の研究で鍵となったのは、2種類の新しいウイルスベクターを組み合わせて、特定の神経回路を選択的・可逆的に遮断する技術の開発に成功したことです。
これまで生殖細胞での遺伝子改変が可能だったマウスでは、このような操作は可能でしたが、霊長類では不可能でした。今回開発された方法は、マウスなどのように遺伝子改変動物の作製をすることが困難であった動物種においても、神経回路の選択的操作を可能にしたという点で、国際的にも注目されています。尚、本研究の成果により、伊佐、渡邉、小林の3名は平成25年度の文部科学大臣表彰(科学技術部門)を受賞しました。


 じょうほう通信  <No.81>

データを可視化してみよう(D3.js編)



昨今、研究結果などのデータは膨大かつ複雑になってきており、刻々と変化するデータへの対応や、目的のデータに早くたどり着くための表現としてグラフやチャートによるデータの視覚化は、より重要となっています。今回はその様な場面で有用な「D3.js」をご紹介します。

D3.jsとは

D3.js – Data Driven Documents (http://d3js.org)は、データに基づいてHTMLドキュメントを操作するための JavaScript ライブラリで、よりインタラクティブなデータの表現に適しています。また、公式サイト上(図1)のサンプルには複雑なグラフや図、アニメーションなどがありますが、その殆どがスマートフォンで閲覧した場合でも充分な速度で描画されます。

Fig.1
図1.公式サイト
さわってみよう

ギャラリーのサイト(図2)では、豊富なサンプルを動かすことができます。 実際のサンプルと共に、コードが掲載されている場合も多いので、作成時の参考になります。

ギャラリーのサイト: https://github.com/mbostock/d3/wiki/Gallery
Fig.2
図2.ギャラリーのサイト
  ex.1
例1:相関グラフ
相関データを元に、forceレイアウトを適用したものです。分子ネットワーク図などに適用できそうです。
  ex.2
例2:パーティショングラフ
tree構造データを元に、partitionレイアウトを適用したものです。データ分類の視覚的効果が高そうです。
 


使い方

DOM()を使ってHTMLをプログラミングする際にD3.jsライブラリを使う事になります。D3ではデータの定義とデザインの選択を行います。

Fig.
 <div> や> <img> といったHTML要素(タグ)にプログラムから操作を行う仕組み。Document Object Modelの略。




DOMとD3.jsを用いて、刻々と変化するデータに対応したWebサイトを作成することができます。プログラミングが必要であるため、最初のハードルは高く感じますが、ほんの少し慣れてしまえば綺麗なグラフなどを作る事が簡単にできると思います。

(服部  学)  

 今月のデータベース

酵母の総合データベース  「NBRP Yeast」

Yeast
分裂酵母
・系統数:  9,174
・遺伝子数:  62,516
出芽酵母
・系統数:  10,811
・遺伝子数:  10,021
・文  献:  615
(2013年7月現在)   
   
DB名: NBRP Yeast
URL: http://yeast.lab.nig.ac.jp/nig/
言 語: 日本語  英語
オリジナルのコンテンツ:
  研究用酵母リソース 
分裂酵母(菌株、プラスミド、ライブラリー、完全長cDNA、ゲノムDNAクローン)
出芽酵母(菌株、プラスミド、ゲノムDNAクローン、gTOW6000
酵母に関する文献情報
リソースの開発とリソースを使った研究成果の論文情報
その他のコンテンツ:
  GenomeViewer(分裂酵母、出芽酵母)、BLAST
特 徴: Webページよりリソースを注文することができる。
Viewerからリソースにアクセスできる。
連携DB: PomBase、SGD
DB構築グループ: NBRP酵母、NBRP情報
運用機関:  国立遺伝学研究所 生物遺伝資源センター
DB公開開始年:  2004年      DB最終更新年:2013年

現役開発者のコメント: NBRP酵母では、YGRCで保有する世界トップクラスの豊富なリソース情報が網羅されています。リソース種も着実に増えています。リソース注文やお問い合わせも多く、手ごたえのあるデータベースであると感じています。データベースワーキンググループでは、10年近い運用の間に蓄積されたノウハウを元にサイトのリニューアルを計画しています。