バイオリソースニュースレター BioResource Now!
  April2012
Vol.8 No.4
PDF download別窓で開きます
 ホット情報 <No.38>
米国のMTAの行方
Read more >>>

 じょうほう通信 <No.68>
スマートフォン用のサイトを作ってみませんか?
Read more>>>

 お薦めBook! <No.4> Read more>>>

バイオリソース関連サイト
   (別窓で開きます)

 ホット情報 <No.38>

米国のMTAの行方

鈴木 睦昭  (国立遺伝学研究所 知的財産室 室長)

生物遺伝資源や研究成果有体物などのマテリアル配布時にはマテリアルトランスファーアグリーメント(MTA)が必要である。非営利間のMTAは、交渉に時間をかけるべきではないが、いまだ、理想的な状況には達していない。今回、AUTM (米国大学技術移転者協会) 2012年次大会(アナハイム)、MTA分科会に筆者が講演パネリストとして参加した。本稿では米国のMTAの最新事情として本MTA分科会について報告する。

1. MTAをやめる?統一?    MTA-WGの活動

本MTA分科会モデレーターStephen Harsy (Wisconsin大学)により、MTAの現状、MTAワーキンググループ(MTA-WG)が紹介された。 米国科学アカデミーは、報告書2010の 第8項で、将来的に科学的なマテリアルについて、技術移転機関は
(1) 非営利間での、非毒性、ヒトサンプルではなく、in vitro使用のマテリアルにおいては、MTAをやめるべきである。
(2) 非営利間ではNIHが勧める UBMTA(生物統一MTA)またはSLA(簡易同意書)のみを使用する。
の二点を推奨している。

さらに、AUTMが行ったMTAサーベイ2011の結果から、UBMTA/SLAの使用頻度はそれほど高くなく、UBMTAを使用しない理由としては、
1) それぞれの大学がUBMTAに似たひな形を使用。
2) 守秘義務、発表前の論文レビューなど項目が必要なため。
3) UBMTAは理解しにくい条項がある。
4) 署名者がない。
などであった。これらの課題に対応するために、昨年、Stephen Harsy らはMTAワーキンググループ(MTA-WG)を立ち上げた。
MTA-WGのゴールは、UBMTAやSLAの使用しない理由を明確にし、普及のための推奨案、ガイダンスを作成する。また、「NO-MTA」活動に関してのレビューを行うことと設定した。
-----------------------------

photo 1
会場の様子(Mariott Anahaim Hotel)
NO - MTA : アカデミア間のマテリアルトランスファーを迅速に行う為にペーパーレスによるMTAを実現しようという仕組み。(http://www.tmd.ac.jp/tlo/gakunai/material/nomta/ より)
2. マテリアル移転:ガイドライン作成のための原則

MTA-WG メンバーの一人のWendy Streize (University of California) からMTAの考え方の基礎概念として、ガイドライン作成のための原則 (Guiding Principle) の作成が説明された。これは論文などで公表された、非毒性、人への使用はしない前提での、アカデミア間のマテリアル移転の14項目の原則から構成される。
たとえば、受領者は第三者にマテリアルの移転はできないが、マテリアル使用で作成した新規物質は、論文の再現の非営利の研究目的には使用できるようにするべきであり、また、提供者は受領者の発明に関して権利を主張すべきでない。提供者は論文に関してのレビュー、論文の別刷りを求めるべきでない、などの項目がある。

3. UBMTAの改良

次にMTA-WGメンバーの一人のMichael R. Mowatt (国立アレルギー感染症研究所, NIAID) がUBMTA の改良について説明した。MTA WG は普及促進のために、UBMTA の改良を提案した。UBMTA の実行書への研究目的の記載を可能にして、輸出規制等の記述を追加した。また、化学物質、ヒトサンプル、iPS細胞などのマテリアルの種類に特定したUBMTAを作成した。

この改良UBMTAは前述の原則とともにAUTMのMTA分科会のホームページ (www.autm.net/Proposed_MTAs.htm) で現在公表、意見を求めている。また、電子署名などが含まれるNIHでのMTA管理システム、TAD (Transfer agreement Dashboard) の紹介があった。

4. マテリアル移転の国際的な障害を低くするために

最後に筆者が国際的なマテリアル移転の円滑化について話をした。今回、前述のAUTM MTAサーベイを日本の12大学に対して行った。
回答された日本と米国の大学を比較すると、MTAは、米国は技術移転の部署で取り扱うが、日本では技術移転部門と学部事務の両者で行われていた。また興味深かった結果は、日米のMTA条項に関する許容性の違いである。論文前のレビュー、研究者の署名の必要性、他国の法律、に関するMTA条項に関しては、日本が米国に比べ許容性が高く、一方、提供者への無償のライセンス使用の許可、特許出願検討のための公表延期、5年以上の秘密情報の取り扱いの条項については、日本が米国に比べ容認できない傾向が示された。さらに豊橋技術科学大学と行ったサーベイ結果より、日本のMTAの国際体制の不十分さを指摘した。

結論として、マテリアル移転の国際的な障害を低くするためには、各国のMTA体制の違いの理解、MTA共通認識とひな形の国際標準化が必要であると提唱した。

photo
AUTM (米国大学協議者協会)2012年次大会でのMTA分科会セッション
筆者(右)とWisconsin大学 Steve Harsey (左)
まとめ:今後の対応と生物遺伝資源配布としての立場

今回のStephen Harsyらの活動は、永らく混沌としているMTAの状況を変えていくものである。非営利機関同士のマテリアル移転は、できるだけ効率的に行われるべきで、今回のGuiding PrincipleやUBMTAの改良提案により、マテリアルの移転がより円滑になることを期待したい。今後、大学間におけるMTAは、ある程度MTAの省略が可能となり、同時に統一形式が、今以上に普及するよう願う。一方、各大学特有のMTAがなくなるには、長い道のりが必要である。
また、米国最大の細胞バンクであるATCCは、UBMTAには改変物の分譲などの項目があるため、品質の担保などを理由に、配布機関としての目的と合致しないと考え、ATCCの独自のMTAの必要性を提唱している。当然、NO-MTAも導入は考えていないであろう。

今後、生物遺伝資源配布に関しても、MTAの議論は出てくるかもしれないが、生物遺伝資源配布においては、NO-MTAや統一形式の採用というよりも、WebベースでのMTAシステムや、より簡易的なMTAシステムの導入を行い、MTAの迅速化、簡易化の方向に向かうと予測する。


 じょうほう通信  <No.68>

スマートフォン用のサイトを作ってみませんか ?


最近では、携帯端末におけるスマートフォンの利用率が約20%を超えたという統計が出ています。外出先でのweb閲覧の機会が増えたり、パソコンを起動する必要がないことから、利用者の非パソコン化は加速しており、ネットワークに対してアクティブな利用スタイルもうかがえます。
Web閲覧端末としての存在も大きいスマートフォンですが、yahooやgoogleの様に「お手本」と言われているサイトでは、検索窓のみのデザインという共通した特徴があります。今回は、スマートフォンで表示するためのシンプルなサイト作成の例を紹介します。


作成に必要なもの

基本はHTML5です。必要に応じてCSS3とjavascriptを使います。 スマートフォンではタッチ操作が基本となりますので、タップ/スライド/フリック/ピンチなどの操作を使う場合にはjavascriptで実現します。


スマートフォンの仕様について

各OSの仕様は図1に示したとおりです。簡単なWebサイトの作成では機種の違いをあまり意識しなくて良いでしょう。

Fig.1


作成してみましょう

HTMLを次のように作成してみます。
Fig.4 Fig.
左記HTMLをスマートフォン 表示した例

この様に通常のHTMLとほとんど変わりありませんが、聞きなれない viewport という metaタグがあります。これは、携帯機器(デバイス)のディスプレイに合わせた表示デザインを指定するためのものです。また、最初の DOCTYPE宣言もシンプルになりました。

基本的な部分はとても簡単です。是非、チャレンジしてみてはいかがでしょうか。
(服部 学)  

 お薦めBook! <No.4>

「ウェットウェア − 単細胞は生きたコンピュータである」        デニス・ブレイ著(熊谷玲美他訳 早川書房 2011年)


細菌は、栄養源となる有機物の濃度を感知し、短期記憶によって直前の濃度と現在の濃度を比較しながら、濃度の上昇する方向に運動する(走化性)。著者によると、これは一種の微分計算ではないかという。コンピュータのハード/ソフトウェアに対し、細胞はウェットウェア(wetware)によって計算を行っているのだという。

同じ単細胞でもアメーバなどの真核生物になると、さらに驚嘆すべき動きを示す。アメーバが餌(ミドリムシの包嚢)を喰えようとして追いかける姿は、まるでボールを追いまわす小犬のようだという。また、アメーバは餌と砂粒を区別し、砂粒ならば即座に吐き出してしまう。このようなアメーバを含む滴虫類の挙動からは、飢えや疲労、さらには快・不快といった細胞の「内的状態」(あるいは萌芽的な“意識”)の存在が伺えるという。

百年前なら滴虫類の観察は生物学の最前線の一つであったといえるが、その後の生物学は時代とともに分析的な研究に突き進んでいった。著者は分子生物学など現在の分子レベルの豊富な知見を動員して、単細胞生物に再び立ち向かうべきだという。著者のデニス・ブレイは、生物学の研究者にはお馴染みの教科書「Essential細胞生物学」の執筆陣の一人でもあり、以上のような主張には傾聴すべきものがある。 (K.N.)