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~ カリで仮の議定書案しかできず、名古屋への道険し、 COP10 議長国 日本に期待 ~ コロンビア カリ (2010年3月22 - 28日) |
南米コロンビア カリにて 比較的新しい車と韓国製の黄色の小型車タクシーが走る街中を抜けて、郊外にいくと馬車も道を走る。昼間はまぶしい光の中、まるで初夏のようだが、夕方から風が強く吹き始め、夜は少し冷え込む。ここは南米コロンビアのカリである(写真1)。 2010年3月22日から28日まで、「生物多様性条約 アクセスと利益分配に関する第9回 公開作業部会(ABSWG-9)」が開催され、120カ国、600人の各国政府関係者、関係機関、民族グループなどが参加した。会議の目的は、2010年名古屋で行われる第10回締結国会議(COP10)に向けて、国際的枠組案の最終決定をすることであった。しかし、会議は先進国と途上国の間で、アクセスと利益配分について理解が進まず、結局、交渉が保留された仮の議定書案をもって、本会議の結果となった。 |
写真1: ホテルから見た朝のカリ市内 |
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生物多様性条約と今回の会議の位置付け
生物多様性条約(CBD)は国連環境プログラム(UNEP)により1992年に署名が開始され、現在、日本を含む192カ国が締結している。ちなみに米国は締結していない。 CBD条約の主な目的は「生物多様性保全の促進」、「その持続性の確保」、「遺伝資源を用いることで得られる利益に関する公平かつ衡平な共有」である。CBD条項第15条では、遺伝資源のアクセスには事前同意書 (prior informed consent: PIC)、相互の同意書(mutually agreed terms: MAT)が必要であることや、利用から生ずる利益の配分などが決められている。また、関係事項として、アクセスと技術移転、バイオテクノロジーの利益のハンドリングと配布が規定されている。
COP8(2006ブラジル)ではCOP10までに国際的枠組みの話し合いを終了させると約束している。今回はCOP10前の最後の作業部会であることから、本会議の目的は、アクセスと利益配分(Access and Benefit Sharing, ABS)に関して、国際枠組みに関する交渉を継続し、ドラフトプロトコール(議定書案)に同意することであった。
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最初の全体会議で共同議長は、名古屋のCOP10に向け議定書の最終化を目指す議論ができるのはあと7日間しか残されていないことを強調し、カリ会議での最終ドラフト議定書の作成を目指すことを宣言した。午後に各国の課題を聞き、その課題をもとに、4つのコンタクトグループ(のちにCOP10準備のグループが増え5つになったが)に分けられた。第1グループはスコープと財務関係、第2グループは法律順守に関する課題、第3グループは派生物、利益配分の共有、第4グループが伝統的知識(TK)である(図1)。2日目の午後から4日目の夜までグループ討論が続き、5、6日目に地域グループ間(IG)会議が開かれた(写真2)。
資源国側からは派生物の範囲を広げたい、監視体制のチェックポイントを強化すべきという意見が、先進国側からは問題営業秘密が守られないので無理があるという主張などで、議論は平行線のまま日程のみ進んだ。5日目夜のIG会議のとき、アフリカ側の提案で一時非公開会議に切りかえる場面もあった。そのあとの会議でアフリカ側から、今回のドラフトは同意がなされていないドラフトとして出すべきとの提案があり、カリの議定書案のフットノートにその旨記載することとなった。交渉が保留された仮の議定書案までしか進まなかったのである。
結局、最終日の全体会議で、“カリから名古屋までの道”が討論され、10月の名古屋まで更に2回の会議を開き、名古屋議定書について討論されることとなった。
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現在においても各国国内法が定められている国では、PICやMATの体制づくりが進んでいる。もはや旅行バックに遺伝資源を入れて持って帰る研究者はひとりもいないと思うが、資源国の教授の了解だけでは不十分で、政府当局の了解を得ることが必要であることを周知徹底するためにも、今後情報発信に努めたいと思っている。
今回の会議でも、研究目的の使用は区別するという意見は各国から出ている。また、日本から非商用利用についての簡単なアクセス方法の提案もなされたが、逆に利用の範囲の順守を厳しく問われる可能性もある。
今後、大学においてもPIC, MATの管理の必要性が増すと考えられ、海外からの遺伝子資源の取り扱いの透明性、システム化が求められるであろう。また、日本国国内法が制定されると、内容によっては大学研究者への影響も免れない可能性がある。
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Nice meeting, adjudge ! と共同議長が木槌を叩き、会議は終わったもののネゴシエーションが保留された仮の議定書案までしか進まず、名古屋までの道は険しそうだ。しかし、最終日の日本代表の発言に各国から拍手が起こり、次の議長国として期待されていることが感じられた。
今回の会議は、学会と違い当日にスケジュールが決定されること、突然の会議中断や、会議が日ごと夜へ突入していくなど、各国の外交の様子を見ることができたことは、貴重な体験であった。
会議会場“カリ イベントセンター”はカリの市内から車で30分程度の場所にある。専用バスは、朝ホテルを出て会場に向かい、夜は警察による誘導のもと、街灯の暗い夜道をホテルに帰る。7日間その繰り返しだった。しかし、初日の経済大臣も訪れた政府主催のサルサダンスと、会議の合間の無料のコロンビアコーヒーの味、夜飲んだ地ビール・クラブコロンビアは忘れ難い。■
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