-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.4 No.7

■ リソース関連イベント情報:

  詳細

■ リソースセンター紹介 No.26:

・ナショナルバイオリソースプロジェクト
  「カタユウレイボヤとニッポンウミシダ」

 

 

 

  佐藤 矩行 
  (京都大学大学院理学研究科)

■ じょうほう通信 No.34:

・ ウェブアプリ脆弱性検知ツール
  「ratproxy」

shigenImage

2008/7/31 


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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 
  リソース関連イベント情報

 最先端バイオリソースの利用のための
    技術研修開催(植物・シロイヌナズナ)の参加者募集のご案内

     研修期間:平成20年9月8日(月) - 9月9日(火)
     実施場所 : 理化学研究所 筑波研究所

 日本動物学会 第79回 福岡大会 『シンポジウムとパネル展示』

     日程:2008年 9月5日 (金) - 7日 (日)
     場所:福岡大学

 日本遺伝学会 第80回大会(名古屋)

     日程:2008年 9月3日 (水) - 5日 (金)
     場所:名古屋大学工学部 IB電子情報館 『ブース開設の予定』


詳細はこちらからご覧になれます。 http://www.nbrp.jp/


  リソースセンター紹介  No.26

 


 ナショナルバイオリソースプロジェクト
     「カタユウレイボヤとニッポンウミシダ」

     佐藤 矩行 
     京都大学大学院理学研究科 教授


Cell

ホヤ・ウミシダ
カタユウレイボヤ・ニッポンウミシダ
ホームページ

 

    はじめに

 

   海産無脊椎動物は古くから発生学、細胞学、生理学(神経生理学を含む)、生化学、生殖生物学、進化学などのさまざまな分野の研究に使われ、それぞれの分野で数多くの新知見の蓄積に貢献してきた。しかしながら、継代飼育の難しさから、海産無脊椎動物の多くは遺伝的背景を整備した研究材料とは、なかなかなり得なかった。最近になってゲノムが解読されるなどの背景を踏まえて、ようやく尾索動物のカタユウレイボヤ (Ciona intestinalis)と棘皮動物のニッポンウミシダ(Oxycomanthus japonicus)でバイオリソースとしての整備が整い、NBRPの中核的拠点形成プログラムとして前者を京都大学と筑波大学で、後者を東京大学で提供する事業が開始されている。


 


center 1. カタユウレイボヤ
   ホヤは脊索動物の一群として脊椎動物の起源と進化を理解するための重要な分類学的位置を占める(最近の研究からホヤ類は脊椎動物の姉妹群であることがわかってきている)。また、脊索と背側神経管を有するホヤ・オタマジャクシ幼生は、最も単純かつ基本的な脊索動物の体制を表すものとして、そのモザイク的発生様式とともに古くから発生生物学の研究対象とされてきた。
   そのような研究の背景の中で、2002年末に動物の中で7番目としてカタユウレイボヤのゲノムが解読された。約160Mbのゲノム中に予測された約16,000の遺伝子は、脊椎動物で見られる2回のゲノムワイドな遺伝子重複の起こる前の、脊索動物の基本的な遺伝子組成を保持するものであった。さらにゲノム解読プロジェクトと並行して行われた大規模なEST/cDNAプロジェクトによって、カタユウレイボヤは無脊椎動物の中では最もcDNAリソースの整ったものの一つとなった。
   その結果、さまざまな生物現象に関するゲノムワイドな解析が急速に進みだしている。例えば、初期発生における細胞の発生運命の決定に関するゲノムワイドな解析、統合的な神経機能の解析、チャンネル分子の機能の解析、神経ペプチドの機能の解析、環境応答へのゲノムワイドな解析などに、今後の研究の進展への期待が高まっている。
京都大学では、主として、野生型・近交系の維持と提供を行っている。また、より純度の高い近交系の確立をめざした事業も進めている。

●2週間に1回ホヤを受精させ発生した幼生を直径9cmのプラスチックシャーレに付着させる。
●2-3週間餌を与えながら幼若体の発生を観察し、その中から最も健康な幼若体を12-15匹/シャーレになるように整える。
●それを舞鶴の水産実験所の浮き桟橋を借りて海中に吊して飼育する(図1)。

 

CITRES
CITRES Home
http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~ciona/


図1

図1:プラスチックシャーレーに付着させ、保持・提供されているカタユウレイボヤ(左)と実際の飼育現場状況(右)


このようにして2-3ヶ月後に成熟した成体を得て、ユーザーに提供した。発送は毎週月曜日に定期的に行われ、2007年8月-2008年3月までの8ヶ月で約2万匹のホヤを研究者に提供している。その結果、天然資源に頼っていた時代には、初夏と秋の限られた季節しか使えなかったものを、通年、ユーザーが安定した数のカタユウレイボヤを得て研究できる状況が整っている。


center 2. カタユウレイボヤのトランスジェニック系統リソース
   筑波大学では、カタユウレイボヤを用いてMinosトランスポゾンを利用して外来DNAをゲノムに挿入させたトランスジェニック系統を作製する技術を確立させている。この技術を利用し、幼生や成体の組織特異的にGFPなどの蛍光タンパク質を発現させたマーカー系統が作製されている。 さらに、Minos の挿入を利用して遺伝子を破壊した突然変異体作製法や、エンハンサートラップ法がこのホヤに導入されている。特にエンハンサートラップ法は、カタユウレイボヤがコンパクトなゲノムを持つことから効率よく進めることが可能である。また転移酵素を発現させた系統と、トランスポゾン挿入を持つ系統を掛け合わせることにより大量にエンハンサートラップ系統が作製出来るシステムが完成しており、この系により様々なマーカー系統が作製されている(図2)。
   サブ拠点の一つ筑波大学・下田臨海実験センターでは、カタユウレイボヤを約6,000匹飼育出来る飼育部屋を構築し(図3)、トランスジェニック系統を収集・飼育し、リクエストに応じて供給する業務を担っている。カタユウレイボヤの飼育には大量の海水が必要であり、特に内陸の研究グループでは飼育は困難である。我々のグループが臨海実験所にあるという長所を生かしてホヤ系統を飼育・維持し、それらをホヤ飼育が困難なグループに供給することでホヤ研究をサポート出来ればと考えている。
   現在NBRPとして所有する系統はおよそ47種類である。 このうち、組織特異的マーカー系統11種類、エンハンサートラップ系統31種類、突然変異体1種類について、実際に提供を進めている。これらの系統についてはウェブページ CITRES (http://www.shimoda.tsukuba.ac.jp/~ciona/index.html)において紹介しているので、系統の利用を考えている研究者は是非アクセスし、どのような系統があるのかを閲覧して頂きたい。また上記に含まれていない系統については、『このような系統は無いのか』などと担当者(笹倉:sasakura@kurofune.shimoda.tsukuba.ac.jp)まで、気軽にメールなどで訊ねて頂きたい。


図2

図 2:カタユウレイボヤ・トランスジェニック系統におけるGFPの発現。 左は幼生の筋肉にGFPを発現させる系統。 右はエンハンサートラップ系統で、変態後の幼若体において内胚葉 (緑)と内柱(マゼンダ)をそれぞれGFPとRFPで染め分けている。

 

図3
図3 : ホヤの飼育風景

center 3. ニッポンウミシダ
   ニッポンウミシダ(図4)は現生棘皮動物の中で最も起源が古いウミユリ類に属す。従来は棘皮動物の代表としてウニが用いられてきたが、ウミユリ類以外の棘皮動物は、中枢神経節などの新口動物に共通する重要な形質を退化させており、この動物群の代表として適しているとは必ずしもいえない。ウミユリ類は、約千個の細胞体からなる中枢神経節を有し、新口動物の中枢神経系の起源と進化の研究に活用できると期待される。これまでに、中枢神経節は、腕の複雑ですばやい運動の統御にかかわり、中枢神経節から放射状に伸びる太い神経索は、腕の再生において再生芽の細胞増殖と分化に関わることが示唆されている。
   東京大学三崎臨海実験所では、ウミユリ類の Elav、Otx、Pax6、Hox 遺伝子群について、中枢神経節形成における役割について解析している。ウニでは、 Hoxクラスターの前方領域の遺伝子群が最後部に転座、逆位をするなど大規模な変動が起きており、前後軸に沿った発現パターンを示すのは後方領域遺伝子群のみである。 興味深いことに、ニッポンウミシダでは、Hox1も含めて前方領域の遺伝子群が、発生初期から発現していることが明らかになってきており、BACライブラリーを用いて、Hoxクラスター構造の解析も行っている。
   強い再生能力と、再生に神経系がかかわることが、ニッポンウミシダの実験動物としての大きな利点の一つである。 現在、多分化能をもつ細胞の指標として Vasa、 PL10の発現解析を進めるとともに、再生に関連する、特に再生過程における中枢神経節で発現する遺伝子群を網羅的に単離することを試みている。また、腕の組織は筋肉、靭帯、骨組織をユニットとした分節構造からなり、新口動物の分節機構の進化と共通性を理解する上でも有用である。Notch-Delta システム、 hairy等の脊椎動物分節機構にかかわる遺伝子についてホモログを単離し、解析を進めている。
   本プロジェクトでは、中枢神経節の cDNAライブラリーやEST情報を保有しており、提供可能である。また、固定胚、幼生、成体、cDNA、ゲノムDNAの提供が可能である。

 

図4

図 4:ニッポンウミシダ

 


図 3
O.japonicus Home
http://www2.mmbs.s.u-tokyo.ac.jp/NBRP/


 




logo

 


  じょうほう通信  No. 34

   ウェブアプリ脆弱性検知ツール「ratproxy」


   情報処理推進機構(IPA)が2008年7月15日に発表した「ソフトウエア等の脆弱性関連情報に関する届出状況 2008年第2四半期(4月~6月)」によると、届けられた脆弱性関連情報の内、ウェブサイトに関するものは全体の3分の2を占めているようです。そのウェブサイトに関する脆弱性の種類の内訳は、クロスサイト・スクリプティング (※ XSS) が68%で第1位,ファイルの誤った公開が18%で第2位となっています。(http://www.ipa.go.jp/security/vuln/report/vuln2008q2.html)

   そこでウェブアプリケーションの脆弱性を検知するためのツール 「ratproxy」 の紹介をしたいと思います。ratproxy は Google が以前は内部で使用したセキュリティ評価ツールを2008年7月1日にオープンソースソフトウェアとして公開したもので、 主にXSS※に関する脆弱性が存在する可能性を検知することが出来ます。対応する OS は Linux・FreeBSD ・MacOS X ・Windows (Cygwin) となっており、今回は ratproxy を Linux (Fedora Core 6) にインストールして使用してみたいと思います。 (http://googleonlinesecurity.blogspot.com/2008/07/meet-ratproxy-our-passive-web-security.html)

XSS … Webサイトの訪問者の入力をそのまま画面に表示する掲示板などのプログラムが、悪意のあるコードを訪問者のブラウザに送ってしまう脆弱性のこと。 【IT用語辞典 e-Words (http://e-words.jp/) より引用、一部改変】


Fig.


Fig.

 

 

   ツールを使ってみよう!

 ratproxy をダウンロードした後パッケージを解凍して、makeします。
         Fig.a

ratproxy を起動して、ログを出力するファイル先を指定します。
         Fig.b

ウェブアプリケーションの脆弱性のチェックを行うブラウザに対して、プロキシの設定を行います。
ここでは ratproxy をインストールした PC のブラウザでチェックを行うので、プロキシの設定画面に
おいて IP アドレスに 「localhost」 と、ポートに 「8080」 と指定します。

プロキシの設定を行ったブラウザを使って検査したいウェブサイトにアクセスすることによって、
テストを行います。

ratproxy のプログラムを「Ctrl + c」のショートカットキーなどで終了させます。


 

 

 

ratproxy-report.shを使って出力結果をHTML形式で出力します。
         Fig.b

ブラウザで出力されたファイルを表示させると、右図のようにカテゴリ別・危険度別に脆弱性の存在の可能性の有無を調べることが出来ます。 Windows (Cygwin) にインストールする場合は、Linuxとは違ってインストールする際に修正しなければならない箇所がある点には注意して下さい。 ぜひ ratproxy を1度使用してみて実際の効果を調べてみると良いのではないでしょうか?


aDesigner

 

(木村 学)     



編集後記 :  自然界にモデル生物という概念はもちろんありません。研究分野で言うモデル生物は、最初に誰かがその生物に注目し、ほかの生物では得られないユニークで魅力的な研究成果を発表することによって、その生物を利用する研究者人口が増え、その結果その生物に関する知識情報が蓄積してモデル生物としての地位を獲得します。モデル生物としての可能性はあっても、研究者人口が増えるかどうかは、その生物材料の入手や扱いが易しいかどうかに大きく左右されます。
  ホヤやウミシダはまさに今この問題を解決しつつあるのです。 海中での飼育で、8ヶ月で2万匹のホヤを研究者に提供できたというのは スゴイ! ことです。(Y.Y.)

連絡先 : 〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp