イネの系統保存事業(植物育種学研究室)
1. 実験系統群の特色およびその管理体制
九州大学農学研究院においてはイネの系統保存事業として、農学研究院附属遺伝子資源開発研究センター・植物遺伝子開発分野と同研究院植物育種学研究室が協力して進めている。
当研究室において系統の維持管理および開発を行っているイネ実験系統群には、以下のような特色がある。
- 古典遺伝学的に認知され、RFLP地図との対応情報の明らかな遺伝子を保持した系統を多数維持している。
- 染色体の数的および構造変異体は非常にユニークなコレクションである。
- 1990年代になって、イネゲノム研究と相応して開発した組換え自殖系統群と亜種および異種染色体断片導入系統群の充実は他に類を見ないものである。
現在、研究は 3.を中心に展開しているので、3. の系統群は研究に使用されてさらに充実するのは確実であるが、1. と 2. イネ実験系統群の維持管理に関しては、専門家は教授、助教授に限られている。
2. イネ実験系統群の概要
植物育種学研究室で管理および開発を行っているナショナルバイオリソースプロジェクトの対象系統群(平成16年5月)を以下に示す。下記の系統群は、95%は当研究室オリジナルで、開発・評価中の染色体置換系統群以外はほぼ完成品である。この他に、作出途中にある系統が約1,000種類存在する。なお、計画段階では、金南風を遺伝的背景とするDV85染色体部分置換系統群KDSの開発・評価を計画したが、亜種間交雑組換え自殖系統群RICとRIDに由来する染色体部分置換系統群の方が、台中65号(T65)を遺伝的背景とし、異種染色体部分置換系統群との比較が容易であるので、RICとRIDに由来する染色体部分置換系統群の開発を行うこととした。
遺伝子保存系統
SG | 遺伝子保存系統 | 194 strains |
FL | 標識遺伝子集積系統 | 585 strains |
Fn(T65) | 準同質標識遺伝子系統 | 287 strains |
染色体変異系統
T | 三染色体植物系統 | 250 系統(概数) |
RT | 相互転座系統 | 288 系統 |
イネ属亜種間交雑由来の組換え自殖系統群
RIA | 組換え自殖系統群(あそみのり/IR24) | 83 系統 |
RIB | 組換え自殖系統群(金南風/DV85) | 83 系統 |
RIC | 組換え自殖系統群(台中65号/DV85) | 125 系統 |
RID | 組換え自殖系統群(台中65号/ARC10313) | 138 系統 |
イネ属亜種間交雑由来の染色体部分置換系統群 (cCSSL)
IAS | IAS あそみのり染色体部分置換系統 (IR24を遺伝的背景とする) |
70 系統 |
AIS | AIS IR24染色体部分置換系統 (あそみのりを遺伝的背景とする) |
98 系統 |
TACSSL | ARC10313 染色体部分置換系統 (CSSL) (台中65号を遺伝的背景とする) |
46 系統 |
TDCSSL | DV85 染色体部分置換系統 (CSSL) (台中65号を遺伝的背景とする) |
47 系統 |
イネ属AAゲノム種異種染色体部分置換系統群関係 (wCCSL)
W1962ILs | O. rufipogon 染色体導入系統群 (台中65号(T65)を遺伝的背景とする) |
44 系統 |
IRGC105715ILs | 0. nivara 染色体導入系統群 (台中65号(T65)を遺伝的背景とする) |
33 系統 |
GLU-ILs[T65] | O. glumaepatula 染色体導入系統群 (T65細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
35 系統 |
GLU-ILs[GLU] | O. glumaepatula 染色体導入系統群 (glumaepatula細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
34 系統 |
MER-ILs[T65] | O. meridionalis 染色体導入系統群 (T65細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
37 系統 |
MER-ILs[MER] | O. meridionalis 染色体導入系統群 (meridionalis細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
42 系統 |
W1508ILs | O. longistaminata 染色体導入系統群 (台中65号(T65)を遺伝的背景とする) |
33 系統 |
GILs | O. glaberrima 染色体導入系統群 (台中65号(T65)を遺伝的背景とする) |
41 系統 |
IRGC103777[T65] | O. glaberrima 染色体導入系統群 (T65細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
11 系統 |
IRGC103777[GILs] | O. glaberrima 染色体導入系統群 (glaberrima細胞質を有し、T65を遺伝的背景とする) |
17 系統 |
以下に、各系統群の概要を示す。
遺伝子保存系統
系統名:SG (Stocks for genes)
- 担当者: 安井 秀
- 種類: 遺伝子保存系統
- 遺伝的背景: 日本型品種
- 系統数: 194 (→種子分譲リストへ)
- 利用目的: 植物育種学研究室(前身は農学第一講座)の主たる研究テーマである 「イネの遺伝子マッピング」(以前は「イネの連鎖研究 」)において利用されている。
- 系統の由来・育成方法: 当研究室で用いてきた標識遺伝子系統(以前はKLと称していた)と、ここ10年ぐらいに当教室において新たにRFLPマッピングを行った遺伝子を有する系統をまとめている。
- 系統の特色: FLとは異なり、できうる限り原系統を保存している。下表に染色体1のリストを示すが、多くの遺伝子座はRFLP連鎖地図上の位置が明らかになっている。
- 参考文献:
Yoshimura, A., O.Ideta and N. Iwata (1997) Linkage map of phenotype and RFLP markers in rice. Plant Mol. Biol. 35:49-60.
系統名:FL (F Lines)
- 担当者:安井 秀
- 種類: 標識遺伝子集積系統
- 遺伝的背景: 日本型品種
- 系統数: 585 (→種子分譲リストへ)
- 利用目的: 前身の農学第一講座から植物育種学研究室の主たる研究テーマである 「イネの遺伝子マッピング」(以前は「イネの連鎖研究 」)において利用されている。
- 系統の由来・育成方法 : 「イネの連鎖研究 」において、標識遺伝子系統間の交配の後代で得られた 遺伝子集積個体を自殖して得られた。2個以上の標識遺伝子が含まれ、 世代は少なくともF15以上となっている。ほぼ毎年育成して、「イネの遺伝子マッピング」研究に活用している
- 系統の特色 : 2個以上の標識遺伝子を含み(下表参照)、ほぼ毎年育成して、「イネの遺伝子マッピング」研究に活用している。
系統名:Fn(T65) (Backcross Fn generation (T65))
- 担当者: 安井 秀
- 種類: 標識遺伝子保存系統
- 遺伝的背景: 日本型品種「台中65号」
- 供与親: 主としてFL
- 系統数: 287 (→種子分譲リストへ)
- 利用目的:イネの遺伝子マッピングおよび各種遺伝実験のテスターに用いられている。多くは日本型品種「台中65号」を数回戻し交配している。「台中65号」はカルス分化、細分化の効率よいので、形質転換実験に好都合である。
- 系統の由来・育成方法: 「台中65号」とFLとの交配F1に「台中65号」 を戻し交配して得られた。
- 系統の特色: 戻し交配の回数はまちまちであるが(下表参照)、出穂期等がある程度均一であるので、当研究室の遺伝実験において利便性が高い(岩田名誉教授育成)。
- 参考文献:
Yoshimura, A., O. Ideta and N. Iwata (1997) Linkage map of phenotype and RFLP markers in rice. Plant Mol. Biol. 35: 49-60.
染色体変異系統
系統名:Triplo Strain Group
- 担当者:安井 秀
- 種類: トリソミックス(2n = 2x +1)
- 来歴:
- 同質3倍体×2倍体 後代(日本晴)
- 解対合突然変異体×2倍体の後代(金南風, 台中65号)
- 利用目的:標識遺伝子やDNAマーカーの所属染色体の決定、特に所属染色体が不明であった連鎖群の整理・統合に利用された。細胞遺伝学的手法による染色体の物理地図の作製のため、ターシャリートリソミックスやテロトリソミックスの給源となった。
- 育成方法: 日本晴の同質3倍体と2倍体の交雑後代から、形態的特徴が互いに異なるトリソミックスを選抜し、標識遺伝子系統との交雑による三染色体分析の結果、日本晴を遺伝的背景にもつプライマリートリソミックシリーズを完成させた。
金南風ならびに台中65号のMNU受精卵処理により誘発された2種類の解対合突然変異体(ds2, ds3)に2倍体を交雑した後代から、形態的特徴に基づいて両品種を遺伝的背景にもつプライマリートリソミックスを同定した。 - 系統の特色: 剰染色体もしくは過剰染色体領域の違いにより、それぞれ特徴的な粒形や穂形、草型を示す。
- 参考文献:
Iwata, N., and Omura, T. 1984. Studies on the trisomics in rice plants (Oryza sativa L.). VI. An accomplishment of a trisomic series in japonica rice plants. Japan. J. Genet. 59: 199-204.
Yasui, H., H. Satoh and N. Iwata 1989. Establishment of a trisomic series in rice by using a desynaptic mutant. Rice Genetics Newsletter 6: 50-51.
Nonomura, K. I., A. Yoshimura and N. Iwata 1997. Cytogenetical gene mapping by reciprocal translocation and tertiary trisomic analyses in rice (Oryza sativa L.). Genes Genet. Syst. 72:41-49.
系統名:RT (Reciprocal Translocation) Strains
- 担当者:安井 秀
- 種類:相互転座
- 遺伝的背景:日本型品種
- 系統数: 288 (→種子分譲リストへ)
- 利用目的:以前は、各種異数体の給源、遺伝子マッピングの材料として用いられてきたが、 最近ではあまり利用されていない。染色体研究の研究材料としての利用が期待される。
- 系統の由来:
- 旧農業技術研究所の西村米八博士が原爆被爆イネ後代およびX線照射後代から選抜し、相互転座の関与染色体を同定した29系統。
- 当研究室において、原爆被爆イネ後代から選抜を行い、関与染色体を同定した9系統。
- 国立遺伝学研究所岡彦一博士から分譲を受け、当研究室で関与染色体の同定を行った18系統
- 当研究室において、原品種を「台中65号」および「日本晴」とし、コバルト60によるガンマ線照射後代から選抜した195系統。 うち、38系統については関与染色体同定済み。
- 琉球大学佐藤茂俊博士から分譲を受けた「台中65号」を遺伝的背景とする同質遺伝子相互転座系統、40系統。
- 系統の特色: 相互転座関与染色体が同定されている系統が多数存在する。原爆被爆イネ後代が含まれ、歴史的に意義深い。
- 参考文献:
西村米八 (1961) 水稲および大麦における相互転座の研究.農技研報 D9:171-235.
岩田伸夫 (1971) 長崎の原爆被爆イネの後代における細胞遺伝学的研究.九大農学芸誌25:1-53.
吉村 淳・岩田伸夫・大村 武 (1980) 水稲品種台中65号の転座染色体の同定.九大農学芸誌34:97-104.
Yoshimura, A., N. Iwata, T. Kawasaki, M. Ali and T. Omura (1988) Identification of interchanged chromosomes in twenty-five reciprocal translocation kines newly established in rice cultivar Nipponbare. Rice Genetics Newsletter 5:62-64.
イネ属亜種間交雑由来の組換え自殖系統群
系統名:RIA (Recombinant Inbred Lines A)
- 担当者:安井 秀
- 種類:組換え自殖系統群(RIL)
- 交雑由来: あそみのり(日本型品種)/IR24(インド型品種)
- 系統数: 83(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(RFLP)
- 系統の由来・育成方法:あそみのり(Japonica)とIR24(Indica)との交雑より、単粒系統法により世代を進めた。自殖により系統を維持しておる。
- 系統の特色:組換え自殖系統を利用したQTL解析が可能になる。
- 参考文献:
Tsunematsu, H, A. Yoshimura, Y. Harushima, Y. Nagamura, N. Kurata, M. Yano, T. Sasaki and N. Iwata (1996) RFLP Framework map using recombinant inbred lines in rice. Breed. Sci. 46:279-284. DOI: 10.1270/jsbbs1951.46.279
系統名:RIB (Recombinant Inbred Lines B)
- 担当者:安井 秀
- 種類:組換え自殖系統群(RIL)
- 交雑由来:金南風(日本型品種)/DV85(インド型品種)
- 系統数: 83(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(RFLP)
- 系統の由来・育成方法:金南風とDV85との交雑より、単粒系統法により世代を進めた。
- 系統の特色:組換え自殖系統を利用したQTL解析が可能になる。
- 参考文献:未発表
系統名:RIC (Recombinant Inbred Lines C)
- 担当者:安井 秀
- 種類:組換え自殖系統群(RIL)
- 交雑由来:台中65号(日本型品種)×DV85(インド型品種)
- 系統数: 125(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(RFLP),Excel(GBS)
- 系統の由来・育成方法:台中65号とDV85との交雑より、単粒系統法により世代を進めた。101系統については150個のRFLPマーカーを用いて全ゲノム領域にわたる遺伝子型を調査した。103系統についてはGenotyping-By- Sequencing法により3277サイトにおける全ゲノム遺伝子型データを取得した。
- 系統の特色:組換え自殖系統を利用したQTL解析が可能になる。
- 参考文献:未発表
系統名:RID(Recombinant Inbred Lines D)
- 担当者:安井 秀
- 種類:組換え自殖系統群(RIL)
- 交雑由来: 台中65号(日本型品種)/ARC10313(インド型品種)
- 系統数: 138(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(GBS)
- 系統の由来・育成方法:台中65号とARC10313との交雑より、単粒系統法により世代を進めた。
- 系統の特色:組換え自殖系統を利用したQTL解析が可能になる。
- 参考文献:未発表
イネ属亜種間交雑由来の染色体部分置換系統群(CSSL)
系統名:IAS
- 担当者:安井 秀
- 種類: 染色体部分置換系統(CSSL)
- 遺伝的背景: IR24(インド型品種)
- 供与親: あそみのり(日本型品種)
- 系統数: 70(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(RFLP)
- 系統の由来・育成方法 : RIAの18系統にIR24を戻し交配し、各戻し交雑世代でRFLPマーカー選抜を行い、染色体部分置換系統を作出した。 供与親であるあそみのりの置換染色体断片が系統間で重複しながら全染色体を網羅している。部分置換系統の候補個体としては遺伝的背景がより均 一な個体を選んだ。BC1F1, BC2F1, BC2F2の各世代で選抜に用いたRFLPマーカー数はそれぞれ47個、69個と87個であった。戻し交雑とマーカー選抜を経た BC2F2の合計888個体から最終的な部分置換系統となる70個体を選んだ。 その後、自殖により系統を維持しておる。
- 系統の特色:IASは、ほとんどすべての染色体領域をあそみのりの置換断片で網羅しており、遺伝的背景は反復親であるIR24となっている。 IASは、AISと相反的なゲノム構成をなすため遺伝子相互作用の解明に役立ち、幅広い利用が期待できる。 そのため、複数遺伝子支配の形質の分析において有効な実験集団となる。
- 参考文献:
Kubo, T., Y. Aida, K. Nakamura, H. Tsunematsu, K. Doi and A. Yoshimura (2002) Reciprocal chromosome segment substitution series derived from Japonica and Indica cross of rice (Oryza sativa L.). Breed. Sci. 52:319-325. DOI: 10.1270/jsbbs.52.319
系統名:AIS
- 担当者:安井 秀
- 種類:染色体部分置換系統(CSSL)
- 遺伝的背景:あそみのり(日本型品種)
- 供与親: IR24 (インド型品種)
- 系統数: 98(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(RFLP)
- 利用目的:量的形質遺伝子(QTL)の詳細な遺伝解析。遺伝子マッピングや遺伝子単離、遺伝子相互作用の分析など。
- 系統の由来・育成方法: RIAの19系統にあそみのりを4回戻し交配して得られたBC3F1と、その自殖後代BC3F2においてマーカー選抜を行なって、 染色体部分置換系統を作出した。供与親であるIR24の置換染色体断片が系統間で重複しながら全染色体を網羅している。 部分置換系統の候補個体としては遺伝的背景がより均一な個体を選んだ。 BC3F1ではRFLPマーカー116種類を用いて66個体を選抜し、 その自殖後代約400個体から、置換断片ホモ型の91個体を選抜した。その後、自殖により系統を維持している。
- 系統の特色:AISは、第3染色体の一部分を除く全ての染色体領域をIR24の置換断片で網羅しており、遺伝的背景は反復親であるあそみのりとなっている。 AISは、IASと相反的なゲノム構成をなし、遺伝子相互作用の解明に役立つ。そのため、複数遺伝子支配の形質の分析において有効な実験集団となる。
- 参考文献:
Kubo, T., Y. Aida, K. Nakamura, H. Tsunematsu, K. Doi and A. Yoshimura (2002) Reciprocal chromosome segment substitution series derived from Japonica and Indica cross of rice (Oryza sativa L.). Breed. Sci. 52:319-325. DOI: 10.1270/jsbbs.52.319
系統名:TACSSL
- 担当者:安井 秀
- 種類:染色体部分置換系統 (CSSL)
- 遺伝的背景:台中65号(日本型品種)
- 供与親: ARC10313 (インド型品種)
- 系統数: 46(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法:T65とARC10313の組換え自殖系統群[Recombinant inbred lines D (RID)]に台中65号 を3回戻し交配して得られた、BC3F1個体とその自殖後代においてマーカー選抜を行い、染色体断片導入系統を作出した。
- 系統の特色:遺伝的背景の大部分がT65に置換されているため、ARC10313由来遺伝子の効果を効率よく推定できる。RIDとあわせて解析を行うことで、全ゲノム領域を対象とした解析とある染色体領域に着目した解析を合わせて行うことができる。
- 参考文献:
Yasui, H., Yamagata, Y., Yoshimura, A. 2010. Development of chromosome segment substitution lines derived from indica rice donor cultivars DV85 and ARC10313 in the genetic background of japonica cultivar Taichung 65. Breed. Sci. 60: 620–628. DOI:10.1270/jsbbs.60.620
系統名:TDCSSL
- 担当者:安井 秀
- 種類:染色体部分置換系統 (CSSL)
- 遺伝的背景:台中65号(日本型品種)
- 供与親:DV85 (インド型品種)
- 系統数: 47(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法: T65とDV85の組換え自殖系統群[Recombinant inbred lines C (RIC)]に台中65号 を3回戻し交配して得られた、BC3F1個体とその自殖後代においてマーカー選抜を行い、染色体断片導入系統を作出した。RICとあわせて解析を行うことで、全ゲノム領域を対象とした解析とある染色体領域に着目した解析を合わせて行うことができる。
- 系統の特色:遺伝的背景の大部分がT65に置換されているため、DV85由来遺伝子の効果を効率よく推定できる。
- 参考文献:
Yasui, H., Yamagata, Y., Yoshimura, A. 2010. Development of chromosome segment substitution lines derived from indica rice donor cultivars DV85 and ARC10313 in the genetic background of japonica cultivar Taichung 65. Breed. Sci. 60: 620–628. DOI:10.1270/jsbbs.60.620
イネ属AAゲノム異種染色体部分置換系統群関係(wCSSL)
系統名:W1962ILs (O. rufipogon Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. rufipogon (W1962 from China)
- 系統数: 44(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 : 日本型品種T65を種子親、O. rufipogon (W1962)を花粉親として交雑F1を育成し、T65にてBC4F1まで連続戻し交配を行った。BC4F2集団113系統113個体に由来するBC4F3, BC4F4についてSSRマーカーを用いた遺伝子型決定とマーカー選抜を行い、44系統を選抜した。
- 系統の特色:一部染色体断片を網羅できていない領域がある。ゲノム断片が重なるように比較的大きな断片を残すように選抜を行った。
- 系統取り扱いの際の注意事項:染色体12末端領域にはW1962アリルホモ接合型に固定できない領域が存在する。系統維持を行うためには、各世代マーカー選抜を行う必要がある。配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
未発表
系統名:IRGC105715ILs (0. nivara Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. nivara (IRGC105715 from Cambodia) 種の同定は国際イネ研究所IRRIのデータベースを参照した。
- 系統数: 33(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 : 日本型品種T65を種子親、O. nivara (IRGC105715)を花粉親として交雑F1を育成し、T65にてBC4F1まで連続戻し交配を行い、BC4F1集団109系統303個体を育成した。BC4F1集団の各1系統より1個体をランダムに選抜し、BC4F2集団109系統3674個体を育成した。BC4F1世代およびBC4F2世代における全ゲノム遺伝子型解析を行い、少数の系統に選抜した。BC4F2世代、BC4F3世代、BC4F4世代についてマーカー選抜による固定化を図り、最終的に33系統を選抜した。
- 系統の特色:多くのゲノム領域にて染色体断片の欠落がある。より早い世代におけるマーカー選抜を行う必要があると思われる。
- 系統取り扱いの際の注意事項:配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
未発表
系統名:GLU-ILs (O. glumaepatula Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型品種)
- 供与親:O. glumaepatula (IRGC 105668)
- 系統数: (1) glumaepatula細胞質シリーズ: 34(→種子分譲リストへ) (2) T65細胞質シリーズ: 35(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ: GLU-IL(GLU) Excel(SSR), GLU-IL(T65) Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法:日本型品種T65とO. glumaepatulaとの正逆交配の後に、T65を花粉親としてBC4F1まで戻し交配を繰り返した。C3F1およびBC4F1世代ではRFLPマーカー106個を用いて全ゲノム選抜を行い、 GLU-ILsの候補個体を選抜した。
- 系統の特色:GLU-ILsは、一部に欠落する染色体領域もあるが、いずれの細胞質においてもO. glumaepatulaの核ゲノムをほぼ包含している。O. glumaepatula細胞質では極度の雑種弱勢となるが、第8染色体の弱勢回復遺伝子Rhwを導入することによって系統の維持が可能となる。GLU-ILsの作出過程において、脱粒性や出穂期などに関する遺伝子座がいくつか同定され、O. glumaepatulaに特徴的な形質の遺伝子分析において有用である。また、2つの異なる細胞質を合わせもつことから細胞質ゲノムの分析においても利用できる。
- 系統取り扱いの際の注意事項:染色体4長腕末端領域の脱粒性遺伝子SH3を保有するGLU-IL 113は顕著な種子脱粒性を示すため、注意を要する。配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
Sobrizal, K. Ikeda, P. L. Sanchez, K. Doi, E. R. Angeles, G. S. Khush and A. Yoshimura (1999) Development of Oryza glumaepatula introgression lines in rice, Oryza sativa L. Rice Genet. Newsl. 16:107-108.
Yoshimura, A., Nagayama, H., Sobrizal, Kurakazu, T., Sanchez, P. L., Doi, K., Yamagata, Y., et al. (2010). Introgression lines of rice (Oryza sativa L.) carrying a donor genome from the wild species, O. glumaepatula Steud. and O. meridionalis Ng. Breed. Sci., 60(5), 597–603. DOI:10.1270/jsbbs.60.597
系統名:MER-ILs (O. meridionalis Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. meridionalis (W1625)
- 系統数: (1) T65細胞質: 37(→種子分譲リストへ) (2) meridionalis細胞質: 42(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ: MER-IL(T65) Excel(SSR), MER-IL(MER) Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 :日本型品種T65とO. meridionalisとの正逆交配を行い、T65を花粉親としてBC4F1まで戻し交配を繰り返した。BC4F1世代ではRFLPマーカー110個を用いて全ゲノム選抜を行い、MER-ILsの候補個体を選抜した。
- 系統の特色:MER-ILs候補個体は,一部含まない染色体領域もあるが,いずれの細胞質においてもO. meridionalisの核ゲノム全体をほぼ包含している.MER-ILsの作出過程においては,有芒性および脱粒性に関する遺伝子座がいくつか同定されている.また,2つの異なる細胞質を合わせもつことから細胞質ゲノムの分析においても利用できる.
- 系統取り扱いの際の注意事項:染色体4長腕末端領域の脱粒性遺伝子SH3を保有するMER-IL 11, 17, 115は顕著な種子脱粒性を示すため、注意を要する。また、MER-IL 20, 21, 23, 110, 121については分離歪み因子のため、導入染色体断片の領域が固定せず、ヘテロ接合体による系統の維持が必要である配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
Kurakazu, T., Sobrizal, K. Ikeda, P. L. Sanchez, K. Doi, E. R. Angeles, G. S. Khush and A. Yoshimura (2001)Oryza meridionalis chromosomal segment introgression lines in cultivated rice, O. sativa L. Rice Genet. Newsl. 18:81-82.
Yoshimura, A., Nagayama, H., Sobrizal, Kurakazu, T., Sanchez, P. L., Doi, K., Yamagata, Y., et al. (2010). Introgression lines of rice (Oryza sativa L.) carrying a donor genome from the wild species, O.glumaepatula Steud. and O.meridionalisNg. Breed. Sci. 60: 597–603.DOI:10.1270/jsbbs.60.597
系統名:W1508ILs (O. longistaminata Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. longistaminata (W1508 from Madagascar)
- 系統数: 33(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 : T65 / W1508の交雑F1花粉親、T65を種子親とした戻し交雑行い、BC1F1個体を育成した。BC1F1以降はT65を花粉親として連続戻し交雑を行い、BC3F1個体を育成した。BC3F1世代において、SSRマーカーを用いた全ゲノム調査を行い、BC3F2個体を選抜した。
- 系統の特色:少数の系統にて全ゲノムが網羅できるように選抜を行った。
- 系統取り扱いの際の注意事項:選抜対象の領域以外は固定が進んでいないため、対象の染色体断片は固定していても、遺伝的背景において分離する遺伝子座が存在する可能性がある。配付系統の遺伝的評価を行う際は注意を要する。配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
未発表
系統名:GILs (O. glaberrima Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統群関係(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. glaberrima (IRGC 104038)
- 系統数: 41(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 : F1に台中65号 を3回戻し交配して得られたBC3F1と、 その自殖後代BC3F2、BC3F4においてマーカー選抜を行い、染色体断片導入系統を作出した。供与親であるO. glaberrimaの置換染色体断片が系統間で重複しながら全染色体を網羅するように選抜を行った。
- 系統の特色:GILsにおいては,第1,7,5,10および第12染色体の一部を除き,O. glaberrima由来の染色体断片を台中65号に 導入することに成功した. O. glaberrimaの主要形質のQTL解析は現在進行中である. また,GILsの育成段階から派生した系統を使用し,出穂期遺伝子や雑種花粉不稔遺伝子を明確に同定し,遺伝地図上に位置づけた.
- 系統取り扱いの際の注意事項:配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
Doi, K., N. Iwata and A. Yoshimura (1997) The construction of chromosome substitution lines of African rice (Oryza glaberrima Steud.) in the background of Japonica rice (O. sativa L.). Rice Genet. Newsl. 14 :39-41.
Doi, K., A. Yoshimura and N. Iwata (1998) RFLP mapping and QTL analysis of heading date and pollen sterility using backcross populations between Oryza sativa L. and O. glaberrima Steud. Breed. Sci. 48: 395-399. DOI: 10.1270/jsbbs1951.48.395
系統名:IRGC103777 (O. glaberrima Introgression Lines)
- 担当者:安井 秀、山形 悦透
- 種類:異種染色体部分置換系統(wCSSL)
- 遺伝的背景: 台中65号(日本型イネ品種)
- 供与親:O. glaberrima (IRGC 103777)
- 系統数: (1) glaberrima 細胞質 17(→種子分譲リストへ) (2) T65 細胞質 11(→種子分譲リストへ)
- 遺伝子型データ:Excel(SSR)
- 系統の由来・育成方法 : T65とO. glaberrima (IRGC103777)の正逆交雑F1を作成し、それぞれのF1個体にT65による連続戻し交雑を行い、T65細胞質およびO. glaberrima細胞質を保有するBC4F1個体を作出した。そのうちT65細胞質集団については、20系統90 個体、O. glaberrima細胞質集団については、11 系統, 46個体について遺伝子型解析を行った。各細胞質について核ゲノム全体を包含する一連の系統群を整備できなかったため、両細胞質由来の系統を合わせてO. glaberrimaゲノムを包含する系統群を確立した。
- 系統の特色:複数のO. glaberrimaイントログレッションラインを比較することで、O. glaberrima種内の普遍性と多様性を解析することができる。
- 系統取り扱いの際の注意事項:配付系統に関して、遺伝子型データ(Excel)の太い黒枠で囲った領域(対象領域)に関しては、染色体断片の保持に努めるが、背景のヘテロ接合型の領域に関しては遺伝子型決定を行っていないので、適宜遺伝子型決定が必要である。また対象領域についてヘテロ接合型の箇所はホモ接合型で固定したものを配付する場合がある。
- 参考文献:
未発表
3. 種子の増殖・管理・配布システムの進行状況
九州大学農学研究院植物育種学研究室の所有する上記のイネ系統群について、以下にシステムの構築状況を系統群ごとに記す。
4. データベースの構築と公開
これまで当研究室で行ってきた突然変異遺伝子座のRFLP地図上の位置付けの結果と多くの突然変異体の形態写真をhttp://www.agr.kyushu-u.ac.jp/lab/plantbreed/mutant/からアクセスできるようにした。
今後は、欠落した写真を補充するとともに、最近同定した遺伝子座の情報も加えていく予定である。