DNA Marker

イネバイオリソースの葉緑体ゲノム識別マーカーの解析

葉緑体ゲノムにおける塩基置換速度は,核とミトコンドリアの中間であり、種レベルの系統識別に有効であることが知られている。さらに同一種における多様性もみられるために亜種レベル、栽培種ではインド型・日本型品種群の変異を検出することが可能である。

Nakamura ら(1997)らにより、イネ葉緑体rpl16遺伝子とrpl14遺伝子の間のスペーサー領域は、陸上植物の種の識別に有効であることが報告された。イネ野生種においては種間識別に有効であることが報告された。栽培種においてはインド型・日本型品種において顕著な差が見出された。それがRPL16遺伝子のストップコドン直後のPS-ID(4-16nt)配列である。同領域は5P(AAAGATCTAGATTTCGTAAACAACATAGAGGAAG)ならびに3P(ATCTGCAGCATTTAAAAGGGTCTGAGGTTGAATCAT)プライマーを用いてPCRで増幅され、PCR産物の塩基配列を読むことで、インド型と日本型の識別が可能となる。形態・生理形質で分類されたインド型20系統,日本型20系統を用いてRPL16遺伝子のPS-ID配列を解読したところ、日本型の典型的なPS-ID配列は以下であることが明らかとなった。

TAACCCCCCAAAAAAAGTAGTATTGAAAATAAAAAACCAGGTTCTTCTTTCTGGAAAGACAA
TATTTCTTTCATCCTTTTGCATTGAAATAACAAATTGAAATCAAAATAATATGATTCAACCTC
AGACCCTTTTAAATGTAGCAGAT
(148nt、赤色および緑色は、それぞれRPL16遺伝子のストップコドンおよびC/Aリピートを表す)インド型は最初のCリピートが8、Aリピートが8となる(緑色)。まれに、核の情報からインド型と見なされていた品種が、PS-ID配列(細胞質)では日本型を示す場合がある。これはその他の核の情報から日本型細胞質親にインド型が花粉親として交雑した後代であると推察される。

第2期イネナショナルバイオリソースプロジェクトでは、このPS-ID配列による種の識別法を、第1期プロジェクトで収集・保存した野生イネに適用し、野生イネコレクションをさらに高度情報化・高品質化することを目標としている。
野生イネコアコレクション263系統を対象に、千葉大学の中村郁郎博士の協力のもとPS-ID配列の解読を行った。


野生イネ間において最も顕著に識別されるのは、austrliensis, brachyantha,granulata,meyeriana,longiglumis,ならびにridleyiであった。

オリザ属におけるPS-ID多型一覧
Species Genome No. of strains Unique sequence type in PS-ID
sativa AA 20 日本型:6C7A,7C6A
sativa AA 20 インド型:8C8A,9C7A
rufipogon AA 43 6C6A, 6C7A, 6C8A, 7C5A, 7C6A, 7C7A, 8C8A, 9C7A
meridionalis AA 17 6C7A,6C8A,7C5A
longiglumis AA 19 6C6A, 6C7A, 7C7A
barthii AA 20 6C7A, 7C6A, 7C8A
glumaepatula AA 21 6C7A, 7C6A
officinalis CC 19 6C7A, 6C8A, 7C7A
eichingeri CC 4 5C8A, 6C7A, 6C8A
rhizomatis CC 6 7C7A
minuta BBCC 14 6C7A, 6C8A, 7C8A
punctata BB 8 6C8A, 7C7A, 7C8A
punctata BBCC 9 6C8A, 7C7A
alta CCDD 4 6C7A, 6C8A
grandiglumis CCDD 16 6C8A, 7C8A
latifolia CCDD 12 6C7A, 6C8A, 7C7A
australiensis EE 10 6C8A(5A-AATA), 7C7A(5A-AATA), 7C7A(5AーAATA)
branchyantha FF 16 7C8A(7A-4A), 8C8A(7A-4A)
granulata GG 6 8C8A(7A-AATA), 9C8A(7A-AATA)
meyeriana GG 9 8C8A(7A-AATA), 9C8A(7A-AATA)
longiglumis HHJJ 11 2A5C6A(7A-AATA)
ridleyi HHJJ 4 2A4C7A(7A-AATA)

(野生イネ分類を参照): AAゲノムからCCDDゲノムまでは上記C/Aリピートに多様性がみられるが、それ以外のPS-ID配列は栽培イネと同一であった。それ以外の種では、C/Aリピート以外にも塩基配列多型が認められた。インド型と同じ8C8Aタイプは野生イネコアコレクション中において5系統みられた。

これらの配列は同種に属する系統の簡易種判別に利用可能であるが、AA-CCDDまでにおいてはより精細な塩基多型をみることが必要である。今後、イネバイオリソースでは、PS-ID配列に留まらず、RPL16全長領域の配列決定をすすめており、準備できしだいデータベース公開とする予定である。

同様に、葉緑体ゲノムの単純塩基配列RCtの解析を神戸大学・石井尊生博士の協力のもとすすめている。RCt1-10座における単純塩基の反復配列(Ishii and McCouch 2000)は種間においての多様性が高いことが特徴である。

PCRによる増幅ののち、シークエンスゲルによる電気泳動並びに銀染色によるバンドの検出により行った。詳細なデータは準備できしだいデータベース公開とする予定である。また今後は、核ゲノム遺伝子も、RPL16遺伝子やRCt配列と同様に種の識別に用いていく予定である。

図:葉緑体PS-ID配列情報によるゲノム比較

図:RCtマイクロサテライトによる細胞質再評価

図:RCt3におけるW1194(O. grandiglumis, CCDD)ならびにW1131(O. officinalis, CC)の塩基配列による再評価

Ishii, T. and S.R. McCouch (2000) Microsatellites and microsynteny in the chloroplast genomes of Oryza and eight other Gramineae species. Theor. Appl. Genet. 100: 1257-1266. Nakamura I., N. Kameya, Y. Kato, S. Yamanaka, H. Jomori and Y-I. Sato (1997) A proposal for identifying the short ID sequence which addresses the plastid subtype of higher plants. Breed. Sci. 47:385-388.

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