イネの基礎 - 実験用稲作マニュアル

播種 移植 交配 除雄
授粉 収穫 種子の保存  

播種

  • 種子の消毒
  • 播種前に籾の表面の殺菌をする。ベンレート水和剤の1,000倍水溶液を用いる。少量の種子を扱うときには、シャーレに種子を入れ、上記の水溶液で種子を浸し、そのまま発芽させることが出来る。

  • 発芽(催芽・芽出し)
  • 播種箱または植木鉢に直播きしても良いが、発芽を確実にするには種類ごとに、適当な大きさのシャーレに入れてまず発芽させる。シャーレの底に濾紙をひき、その上に種子を並べて、水を種子が浸る程度に注ぐ。これを定温器(30℃)または室温で保存する。普通の場合には内・外穎を付けた籾のままで行うが、とくに丁寧にするときは籾殻(内・外穎)を取り除いた裸の種子にして処理する。2‐3日すると発芽してくるが、一週間程で大部分が発芽する。

  • 播種および播種箱
  • 発芽した種子を、あらかじめ土を入れて用意した播種箱または植木鉢に植え付ける。多数の系統を扱うときには播種箱に條播(筋播き)しておくと便利である。用土の上に浅く筋を付けた溝に、ピンセットで催芽した種子を1.5~2cm間隔で並べ、その後、周りの土を寄せて覆土する。行の間は5~6cm。種類ごとに行または区画の先頭に識別用の名札(ラベル)を付けておく。播種箱は持ち運びの便を考え、あまり大きくない方がよい。遺伝研では、縦33cm,横57cm,深さ10cmの木製または市販のプラスチック製(35x53x10cm)の容器を使っている。

移植

  • 初めから植木鉢その他に種子を直播きしても良いが、特にいろいろの種類の材料を 扱うときには、上記のように播種箱に分別して育てた苗を、30日前後の時期に 植木鉢または水田に移植する。
  • 植木鉢
  • 培養土と適量の元肥を混ぜたものを鉢に満たす。後で、水を入れた場合に、水が土の上に溜まった状態になるように土の表面から鉢の縁まで余裕を持たせて入れる。植木鉢は、定量的な栽培試験用にプラスチック製の5千分の1アール(内径約16cm)または2千分の1アール(内径約25.5cm)の円筒形のワグナーポットが市販されているが、イネを育てるだけであれば、同様の大きさのプラスチック製のバケツで十分代用できる。遺伝研では口径24cm、深さ17~18cmのプラスチック製バケツが使われていたが、安価な上、取っ手がついていて、移動に便利で良く利用されていた。

  • 施肥
  • 10アール当たりの施肥量は、窒素(N)10kg、燐酸(P205)12kg、カリ(K20)10kgの割合である。

  • 日長処理

交配

  • イネは、開花(開穎)とともにその花の葯が裂開して花粉を柱頭に散らせて、受精(自家受精)が行われるので、交配のためには母本になる個体の開花前の花の葯を取り除き(除雄)、その柱頭に父本になる個体の花粉をかけてやる(授粉)必要がある。
  • 開花の調節
  • 交配をするには、母本が開花したときに、同時に父本が開花して成熟した花粉を供給できなくてはならない。そのため、両者の開花期を一致させることが必要である。短日処理によって開花期を調節する方法は、そのための設備が必要となる。そのような設備がないとき、わが国で自然に開花が可能なイネであれば、播種期をずらすことによりある程度開花期を遅らせることが出来るので、幾つかの播種期を変えた材料を植えて、丁度良く開花期の合った材料を使うようにすることが出来る。

  • 母本の鉢上げ
  • 水田に植えてある母本は、交配の前日くらいに掘り上げて植木鉢に移しておく。

除雄

  • 葯除去による除雄
  • 開花前日の午後に、穂の中の翌日開花する花を選んで葯を除去する。そのためには、穎花の先を3分の1ほど切り除き、その切り口から先の細い眼科用のピンセットを用いて、穎花の中の成熟前の葯を取り除く。この際、柱頭を傷めないように注意する。葯は6個あるので、取り残しのないようにする。処理した花を残して、そのほかの穎花を全て切り落とす。この様に処理した穂に袋かけをし、他の花粉が掛からぬようにして、次の朝まで保存する。翌朝、明るくなると開花(開穎)を始めるので、出来れば暗いところに保存して、交配作業を始める前に明るいところに持ち出すようにする。

  • 温湯除雄法
  • イネの穂を43度の温湯に5~7分間浸しておくと、当日開穎予定の花の葯の中の花粉が死ぬと同時に、温湯の刺激で花が開いてくる。開花してきた穎花以外を全て切り除く。開花している中に柱頭に父本の花粉を振り掛けてやる。

授粉

    父本の穂を交配当日の朝、開花前に切り取り、水を入れたフラスコに挿して用意しておく。母本の除雄した穎花が開いてきたら、開花してきた父本の花粉を振りかけて交配する。花粉が十分にないときは、開穎した花から裂開直前の葯を取り出して、母本の柱頭の上で裂開させて花粉を振り掛ける。

収穫

    開花後40~50日後、籾の色が黄色になり、種子の内容が硬くなった頃に収穫する。

種子の保存

    乾燥・低温の状態で保存する。一般には涼しいところで、乾燥器(デシケータ)の中に保存する。やや長期に保存するときには、-1℃、相対湿度30%で保存する。


    参考文献

    イネ育種マニュアル
    農業研究センター研究資料 第30号 農林水産省農業研究センター 平成7年10月
    モデル植物の実験プロトコール イネ・シロイヌナズナ編
    島本功・岡田清孝監修 細胞工学別冊 植物細胞工学シリーズ4 秀潤社

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