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 2016
Vol.12 No.6
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 研究とバイオリソース <No.27>
サブテロメアはテロメアのサブじゃない
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 研究とバイオリソース <No. 27>

サブテロメアはテロメアのサブじゃない

加納 純子 (大阪大学 蛋白質研究所 独立准教授)
 染色体最末端構造体、テロメア

遺伝情報を担うDNAは、ヒストンなどの様々な物質と結合することによって、染色体と呼ばれる構造体を形成している。一般的に、真核生物は線状の染色体を持っている。その最末端には、とても精巧な仕組み「テロメア」が備わっている。

テロメアは、特殊な繰り返し配列からなるテロメアDNAと、それに結合する多くのタンパク質などから構成される。近年、テロメアに関する研究が急速に進み、多くの知見が蓄積してきた。中でも人々の興味を惹くのは、テロメアと細胞寿命との関係であろう。生殖細胞では、テロメアDNAを伸長する酵素であるテロメラーゼの活性が高く維持されており、テロメアDNAは各生物種で決められたほぼ一定の長さに永続的に保たれている。すなわち、私たちは非常に遠い祖先から代々ほぼ同じ長さのテロメアDNAを受け継いでおり、これによって種の保存が可能になっている。一方、卵子と精子が受精した後、テロメラーゼの活性が抑えられる。これによって、体細胞では細胞分裂の度に、正確にはDNA複製の度に、テロメアDNAは少しずつ短くなっていく。なぜなら、テロメラーゼ以外のDNA合成酵素だけでは染色体最末端部分まで完全にDNAを複製できないからである。ある一定の長さまでテロメアDNAが短くなると、細胞は細胞分裂を不可逆的に停止し、老化細胞となる。すなわち、テロメアDNAは細胞寿命をカウントする時計のようなものである。

 テロメア隣接領域、サブテロメア

染色体最末端のテロメアに隣接して、「サブテロメア」と呼ばれるドメインが存在する。サブテロメアはテロメア繰り返し配列とは異なるDNA配列をもち、サブテロメア間で非常に高い相同性を有するDNA領域を含む。

分裂酵母の場合、3本の染色体のうち1番と2番の染色体にはサブテロメアが存在するが、3番目の染色体は系統によって存在しない場合もある。1番と2番の染色体では、テロメアに隣接して50kbのサブテロメア相同配列があり、その隣にヒストンの翻訳後修飾レベルが非常に低いという特徴をもつ50kbの領域が続いていて、通常これらを合わせた100kbの領域をサブテロメアと呼ぶ場合が多い。3番目の染色体にサブテロメアが存在する場合には、比較的短いサブテロメア相同配列が、テロメアとrDNAの繰り返し配列の間に存在することがわかっている。

Fig.
染色体の構造
 シュゴシンタンパク質 Sgo2 はサブテロメアに局在する

テロメアとは対照的に、サブテロメアの機能や制御のメカニズムについては、あまり明らかにされていない。そこで、サブテロメアの未知なる機能を明らかにするため、私たちは細胞分裂期に染色体のセントロメアに局在して正確な染色体分配に重要なシュゴシンタンパク質∗1Sgo2 がテロメア近傍にも局在するという情報に着目した(文献1)。詳しいSgo2の局在を明らかにするため、ゲノムワイドな ChIP-chip解析∗2を行ったところ、Sgo2 は100 kb以上に渡るサブテロメア全域に局在することがわかった。また、このサブテロメア局在は細胞周期の間期、特にG2期にピークを迎えることがわかった。

Sgo2は高度に凝縮したクロマチン構造knobの形成に必須である

時を同じくして、松田ら(情報通信研究機構)によって、間期にある分裂酵母細胞においてサブテロメアのユニーク配列を中心とした領域が、DAPI∗3で非常に強く染まることが超高解像度顕微鏡で観察され、その染色ドメインはknobと名付けられた。knobは他の染色体領域よりも高度に凝縮した、クロマチン構造をとっていると考えられる(文献2)。そこで次に、Sgo2とknobとの関係を探った。Sgo2をサブテロメアからなくすと、knobが全く検出できなくなったことから、Sgo2はknob構造形成に必須であることがわかった。

 Sgo2はサブテロメア領域の転写やDNA複製タイミングの維持に重要である

一般的に高度に凝縮したクロマチン構造は、転写に対して抑制的に働く傾向にある。そこで、Sgo2をサブテロメアからなくした状態におけるゲノムワイドな転写を調べたところ、元々Sgo2が局在していたサブテロメアにおいてのみ、転写量が顕著に増加していた。このことから、サブテロメア遺伝子群の転写は、Sgo2あるいはknob構造によって抑制されていると考えられた。

一方、細胞周期∗4のS期(DNA合成期)では、次の細胞分裂に備えて染色体DNAが複製される。染色体上には複製開始点(origin)と呼ばれる部位が多く存在し、各originは複製を開始するタイミングが決定付けられている。S期の早い時期に複製を開始するものはearly origin、S期の遅い時期に複製を開始するものはlate originと呼ばれており、分裂酵母のサブテロメアにはS期の最も遅い時期に複製を開始する、late originが多数存在する。興味深いことに、Sgo2をサブテロメアからなくすと、サブテロメアのlate originがearly originのように早期に複製を開始するようになった。このことから、Sgo2がサブテロメア領域のDNA複製タイミングの維持に重要であるということがわかった(文献3)。


∗1 シュゴシンタンパク質:染色体の動原体が離れないように守護するタンパク質。日本の研究者が発見し命名した。  
∗2 ChIP-chip解析(chromatin immunoprecipitation chip解析):
クロマチン免疫沈降オンチップ:抗体を用いてDNAとタンパク質の結合(相互作用) をマイクロアレイを用いて見つける方法。
 
∗3 DAPI:DNAに強力に結合する物質  
∗4 細胞周期: 間期:分裂準備期(G2) → 細胞分裂期(M) → 間期:DNA合成準備期(G1) → 間期:DNA合成期(S) → G2  
サブテロメア研究の面白さ

以上のように、細胞分裂期にはセントロメア局在しているシュゴシンタンパク質が、間期になるとサブテロメアにリクルートされ、knob構造の形成、サブテロメア遺伝子群の転写抑制、サブテロメア領域のDNA複製タイミングの維持に、重要な役割を果たしていることがわかった(図1)。しかし、どのようにしてSgo2の局在が細胞周期依存的に制御されているのか? Sgo2のセントロメアでの機能とサブテロメアでの機能は全く別物なのか、それとも実は関連があるのか? 今回分裂酵母でわかったことが他の生物種でも保存されているのか?など、疑問は尽きない。

最初にテロメア隣接領域のことをサブテロメアと命名した人は、サブテロメアの重要性にまだ気づいておらず、テロメアのサブでいいと思ったのかもしれない。しかし、サブテロメアはテロメアの補助役というだけでなく、独立した染色体ドメインとして別の機能を果たしていることがわかってきた。一方、サブテロメアDNAやクロマチン構造の異常が原因とされるヒトの病気がいくつか知られており、ヒトのサブテロメア機能制御メカニズムの解明が待たれている。さらに、ヒトと類人猿(ボノボ、チンパンジーなど)のサブテロメア構造には大きな違いがあるという事実は、進化との関連を想像すると非常に面白い。今後益々サブテロメア研究が発展することは間違いないと思われ、そのためには様々な生物種の細胞株を保持している、バイオリソースの存在が非常に重要になるであろう。

Fig.1
図1.線状染色体最末端にはテロメアに隣接して、サブテロメアが存在する。
シュゴシンタンパク質Sgo2は、間期にサブテロメアに局在し、knobと呼ばれる高次クロマチン構造を形成するとともに、サブテロメア遺伝子群の転写制御(抑制)およびDNA複製タイミング維持に重要な役割を果たす。
 
  参考文献
1. Kawashima et al. (2010) Phosphorylation of H2A by Bub1 Prevents Chromosomal Instability Through Localizing Shugoshin. Science 327: 172-177
2. Matsuda et al., (2015) Highly condensed chromatins are formed adjacent to subtelomeric and decondensed silent chromatin in fission yeast. (Cryptomeria japonica). Nat. Commun. 6: 7753
3. Tashiro et al., (2016) Shugoshin forms a specialized chromatin domain at subtelomeres that regulates transcription and replication timing. Nat. Commun. 7: 10393


 じょうほう通信  <No.106>

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Fig. 1
図1. Calibreフォーマット変換画面

Fig. 2
図2.PDFとEPUB

Fig. 3
図3. Sigil

Fig. 4
図4.編集前と編集後

(生物遺伝資源センター データベース事業部 吉岡 美春)