バイオリソースニュースレター BioResource Now!
  January 2014
Vol.10 No.1
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 ホット情報 <No. 45>
タイ王国バイオリソース研究センター(TBRC): タイにおける生物多様性の管理
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ホット情報  <No. 45>

タイ王国バイオリソース研究センター (TBRC) : タイにおける生物多様性の管理

Dr. Lily Eurwilaichitr, Deputy Executive Director of BIOTEC

タイおよびこの地域のバイオ産業の拡大に伴い、タイ国立遺伝子生命工学研究センター(BIOTEC)が中心となってタイ王国バイオリソース研究センター(TBRC)が設立されることになりました。生物多様性条約(CBD)の下に遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)の規則と手続きを定める名古屋議定書(NP)が最近採択されたことからも、時宜を得た設立といえましょう。

TBRC では、既に特性がわかっている高品質の厳選された生物素材を、国際品質基準「OECD による生物資源センターのための最良実施ガイドライン」に則って維持管理し、利用者に提供することを目指しています。微生物の菌株は、タイ全土からカルチャーコレクションのネットワークを通して提供されるため、多様なリソースを提供することができます。微生物菌株を最大限利用するために、バイオインフォマティックスやバイオテクノロジーを駆使して、遺伝子配列、酵素のスクリーニング結果、および化合物データベースといった有益な情報も提供します。

またTBRC は、タイおよびASEAN諸国のバイオリソースの保存と利用を支援するために、バイオリソース管理ツール iCollect を提供する予定です。iCollect は BIOTEC により開発されたデータベース管理システムで、これを各保存機関が採用することによって、利用者にとっては使い易く、かつ名古屋議定書に従うために必要なトレーサビリティも確保できるようになります。タイの各微生物株保存機関がこの法的問題の認識を深めるための教育や、タイおよびASEAN諸国で使用されるガイドラインの作成なども我々の主な活動です。

TBRC は2014年3月、タイランドサイエンスパークの新しい最先端施設において発足する予定です。タイランドサイエンスパークは、タイの主要な科学技術組織および研究センター(生物工学、コンピュータ工学、物質科学、およびナノテクノロジー)だけではなく、Betagro、Ecolab、Mitr Phol、PTT Phenol、Polyplastics、SCG、Western Digital、Air Products、および Zoetis(以前のPfizer Animal Health)のような、主要なタイおよび多国籍ハイテク企業の活動拠点でもあります。

Fig. 1
 TBRC の組織

TBRCは主としてBiomaterials(生物材料)、Bioinformation(生物情報)、Biolaw(生物関連法)、及びBiobusiness(バイオビジネス)の4グループからなり、Biobusinessグループは前の3グループをサポートします。

Biomaterialsグループは、民間及び公共機関に対して、微生物株の 保存と同定に関する技術的なトレーニングや特別のサービスを提供します。このほか、プラスミドDNA、動物細胞株、ハイブリドーマクローン、及び植物生殖質といった生物素材も維持管理しています。

Bioinformationグループは、タイの生物資源に関する情報に統合的にアクセスするための情報基盤を確立し、バイオリソースからの価値を創造するためのバイオインフォマティクスを含む計算手法を開発することを目指しています。TBRC はTBRC のパートナーや協力者が維持する様々な生物資源データベースや解析ツールと連携します。さらにTBRC は、物質譲渡と利益分配に必要な情報処理の標準化も進めます。

Biolawグループは、TBRC の活動(例えば物質譲渡契約(MTA)、物質取得契約(MAA)、及び実施許諾契約)の全般的な実施のための書類を作成し、バイオリソースを法的に管理することを目的としています。さらにこのグループは、他の微生物株保存機関の法律の相談にも応じます。

Biobusinessグループが目指すのは、該当ビジネス単位と協調し、製品ポートフォリオ作成のために重要なバイオリソースデータベースを研究開発し、生物資源関連の産業を研究分析して、生物資源センターの適切な行動計画を作成することです。

Fig. 2
TBRC の組織図 
 TBRC のネットワーク

TBRC の広域ネットワークを構成する機関は以下の通りです:

  • タイ微生物株保存機関ネットワーク(TNCC)はタイの4つの主要な微生物株保存機関、すなわちBIOTEC(Ministry of Science and Technology)、医科学局(Ministry of  Public Health)、農学局(Ministry of Agriculture and Cooperatives)、及びタイ科学技術研究所(Ministry of Science and Technology)からなる。
  • タイの各大学にあるバイオリソース研究センターのネットワーク。
  • ASEAN 諸国にあるバイオリソース研究センターのネットワーク。ASEAN 微生物活用ネットワークは、ASEAN 各国の学術研究所をメンバーとして2014年2月に組織される予定。
 BIOTECにおける生物素材の現状

過去10年に渡りBIOTECは、生物資源の持続可能な活用を目指す研究プログラム(微生物資源の管理と微生物活用の研究プログラム)に時間と努力を注いできました。BIOTEC は、OECD が作成したガイドラインに従って微生物を提供するため、1996 年に BIOTEC 微生物株保存機関(BCC)を設立しました。BCCには約63,854 の菌株(1,038 属2,027 種)が 収集保存されています。2013年9月現在、41,099 の真菌(809 属1,264 の種)、6,514 の酵母(63 属315 種)、及び 15,971 の細菌(166 属448 種)が保存されています。これらの菌株は、長期間遺伝的に安定に保存するために、冷凍または凍結乾燥されています。保存培養株の生存と保全性をより確実にするために、多くの予防策がとられており、たとえば自動温度制御調整装置、警報システム付き温度監視装置、およびバックアップ用電力貯蔵装置などを利用しています。2005年に BCC は、サービスプロバイダーとしてISO 9001:2000 の認証を受けました。BCC の施設自体も知的財産部局より特許関連の微生物貯蔵所として指定されました。

BCCの微生物の大半は、人の健康、環境整備、農業や工業への応用研究に使われています。現在BCC は、創薬の可能性のある分離株を6,000 以上、農業や工業への応用が見込める酵素活性を示す分離株を2,000 以上、種分類の基準種は約400 株保有しています。
微生物以外にも BIOTEC は研究と産業に使用できる様々な生物素材、42 のベクター、21 のホスト、80 の組み換え体クローン、および抗体産生のための430 のハイブリドーマクローンを収集保存していますし、BIOTEC バンコク植物標本保存施設(BBH)は菌類の乾燥標本を34,681 保存しています。

Fig.3 Fig. 4

TBRCの公式稼働(2014年)後は、BIOTEC における BCC の微生物その他の生物素材のコレクションが徐々に TBRC に移されることになり、BIOTEC のバイオリソースの管理体制が整うともに、タイと ASEAN 諸国に跨るネットワークも強化されることでしょう。

TBRC に関する詳細な情報は、www.biotec.or.th/tbrc から発信しています。


 今月のデータベース

線虫データベース  C. elegance


tomato
• 変異体: 5,482系統
• プロモーター・マーカー: 187プラスミド

(2013年12月現在)   
 
DB名: C. elegans
URL: http://www.shigen.nig.ac.jp/c.elegans/
言 語: 日本語  英語
コンテンツ :
  変異体の対立遺伝子、表現型、変異部位、遺伝子構造、プライマー配列など.
プロモーター・マーカーのコンストラクト名、遺伝子名、発現パターン
特徴:
  ウェブサイトを通じて利用者からの新規標的遺伝子の変異体スクリーニングを受け付けており、その進行状況も確認できる.

リソース配布先の情報が公開されている.
論文のフィードバックが多い.
連携DB: Worm Base、RRC (成果論文データベース)
DB構築グループ: NBRP線虫、NBRP情報
運用機関:  国立遺伝学研究所 生物遺伝資源センター
DB公開開始年:  2003年      DB最終更新年:2013年

現役開発者のコメント: 線虫データベースは10年前に公開してからほとんど変更なしに安定運用できている稀なケースです。NBRP線虫の代表機関によるデータ更新、スクリーニング依頼者の受付、リソースを使った研究成果のフィードバックなどのすべてがオンライン上で円滑に行われ、年平均400-500ずつの変異体系統が蓄積していきます。開発者からみると手のかからない完成度の高いデータベースではありますが、利用者の間口を広げる意味でも、そろそろ新しい[顔」を準備したいと思っているところです。