-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.5 No.9

■ リソース関連イベント情報:

  詳細

■ 研究とバイオリソース No. 5:

・実験動物としてのコモンマーモセット
 佐々木 えりか

 

 

 (財)実験動物中央研究所 マーモセット研究部
 慶應大学医学部
   ヒト代謝システム生物学研究センター

■ べんの博士のうんちく講座

・連載 第9回 肉だけを食べ続けた実験

■ じょうほう通信 No.43:

・配色に困った時に

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2009/9/30


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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 

  リソース関連イベント情報

 バイオリソースシンポジウム開催のお知らせ
    日程:2009年10月23日(金) 13:00 - 17:45
    場所:京都工芸繊維大学 松ヶ崎キャンパス 総合研究棟4階多目的室


詳細はこちらからご覧になれます。 http://www.nbrp.jp/


 

  研究とバイオリソース No. 5

 


 実験動物としてのコモンマーモセット

    佐々木 えりか  (財)実験動物中央研究所 マーモセット研究部 室長
    慶應大学医学部ヒト代謝システム生物学研究センター 特別研究准教授


コモンマーモセット

 

    コモンマーモセット   

 

   マウスは実験動物としてライフサイエンス研究に多大な貢献をしてきましたが、マウスとヒトは系統学的に離れているため、生理学的、解剖学的、組織学的に違いが多く、マウスで得られた研究結果を直接ヒトに当てはめることができない場合も多くあります。このような背景から、ヒトの疾患の研究などでは、マウスよりもヒトに近い霊長類の実験動物を用いた研究が重要となっています。1960年代より霊長類の実験動物の一つであるコモンマーモセット(Callithrix jacchus:以下マーモセット)は、ライフサイエンス研究に用いられるようになっており、1980年後半からその利用数は年々増加しています。

   マーモセットはヒトと同じ真猿類に属する南米ブラジル北部原産の小型の霊長類です。真猿類は旧世界ザル(狭鼻類)と、新世界ザル(広鼻類)に分けられます(図1)。新世界ザルは約2,600 - 2,700年前に旧世界ザルと分岐したと言われており、これはヒトとマカク類が分岐する数百年前であるとされています。マーモセットを含む新世界ザルは、早期に分岐した結果、生物学的に独自の進化を遂げ、霊長類としてヒトと類似した特徴を持ち併せながら一方でヒト、旧世界ザルとは異なる様々な特徴を持つようになりました。

   その大きな特徴の一つに高い繁殖能力が挙げられます。マーモセットは、生後約1年〜1年半で性成熟に達し、妊娠期間は約145日で、一回の出産で2匹〜3匹の仔を出産し、年間2回出産します。1匹の雌の生涯出産回数は20〜30回、生涯産仔数は40〜80匹と言われています。この高い繁殖効率は、実験動物としてコロニーを確立するためには非常に重要な条件となり、性別、年齢、体重などを複数個体揃えた対照試験等と繰り返し行うことを可能にしています。また、発生工学の研究を行う上で非常に有利な特徴であると言えます。

   進化の過程からマーモセットは病原体への感受性もヒト、旧世界ザルと異なっています。マーモセットにおける人獣共通感染症の報告は非常に少なく、B virusについては自然発症の報告はなされておりませんし、赤痢、結核、サルモネラ菌に対する感受性も低い事が知られています。マーモセットは、実験者が危険な人獣共通感染症に感染する危険性が極めて低い、安全な霊長類の実験動物であるといえます。


図1

図1.霊長類の世界分布図


   マーモセットの研究用ツール   

 

   実験動物としての有用性は、その動物自身が持つ生物学的特徴が重要であるのは言うまでもありませんが、その動物の生体情報を確認できる解析ツールが揃ってこそ、その真価を発揮します。マーモセットの解析ツールは近年、徐々に充実しつつあります。マーモセットの全ゲノム配列の解析は、アメリカのWashington University St. Louis School of Medicine Genome Sequencing Centerより発表されWeb上で公開されていますし、Children’s Hospital Oakland Research Institutionでは、マーモセットゲノムBACライブラリーが入手可能となっています。我が国では、主要臓器の完全長cDNAライブラリーおよび脳のcDNAマイクロアレイチップが作製されています。
    マーモセットの細胞表面抗原は、ヒトの抗体に交差するものが多くありますが、ヒトの抗体と交差性を示さないマーモセットの細胞表面抗原も存在し、これらに対する抗体の作製も行われています。また、マーモセットのES細胞株も樹立されており、理化学研究所の細胞バンクから入手可能となっています。


    ヒト疾患モデル動物   

 

   ヒト疾患モデルは自然発症モデルと人為的作出モデルがあります。自然発症モデルとしては、老齢によるアルツハイマー病モデルなどが挙げられます。さらに人為的作出モデルについては、作成法により大きく3つの方法に分けられます。1つは物理的改変モデルで、外科的手法によって作出されるものです。マーモセットの物理的疾患モデルとして、脊髄損傷モデル、心筋梗塞モデルなどのモデル作出法が確立しています。2つ目は薬物投与モデルで、パーキンソン病モデル、多発性硬化症モデルなどが作製されています。

   3つ目は遺伝子改変によるモデルです。遺伝子改変によるヒト疾患マーモセット作出はまだなされておりませんが、最近、蛍光タンパク質である Green Fluorescent Protein (GFP)遺伝子を導入したマーモセット作出が成功しており(図2)、導入遺伝子の次世代への伝達も確認されたことから、この方法を応用することによって遺伝子改変によるヒト疾患マーモセットの作出への道が拓けました。これによって、筋萎縮性側索硬化症、筋ジストロフィー症など、現在までに有用なモデル動物が存在せず、治療開発が困難であった疾病の治療法研究に貢献すると期待されます。また、この方法を応用することにより、組織特異的に蛍光タンパク質を発現するマーモセットを作出し、これまでは不可能であった同一個体を用いた神経細胞などの発達の、経時的観察を非侵襲的に行う事も可能にする技術でもあり、動物実験を行う際の3R (Replacement, Reduction, Refinement)を推進することにも貢献すると考えられます。■

 

図2
図2.遺伝子改変マーモセット




 

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連載  べんの博士のうんちく講座 第9回

 


   肉だけを食べ続けた実験


   「私はこれまでにたくさんの方の腸年齢を調べてきましたが、その中には、実年齢は20歳なのに腸年齢が70歳以上に達していた女性もいました。その方は、いつもお菓子やペットボトル飲料で食事をすませており、ご飯類をほとんど摂らないという有様でした。腸年齢の測定のために提供してもらった便も、2週間も便秘が続いたあとに下剤を使ってやっと出したという筋金入りのものでした。
   通常、人の便は弱酸性を示すものですが、この女性の便はアルカリ性で、肉食動物である私の愛犬より肉食だということも分かりました。日本でもっとも多くの便を観察してきたであろう私でさえ、初めて目にする結果でした。
   この女性の例からも分かるように、腸年齢が実年齢以上に老いる最大の原因は、やはり食生活にあります。食べ物は小腸で消化・吸収され、大腸へと送られます。その間に消化しきれない食べカスなどを、腸内細菌が餌にするので、食べ物は、腸内細菌のバランスに大きな影響を与えているのです。


   腸内の悪玉菌の大好物は、たんぱく質や脂肪を多く含む食品です。これらは腸内細菌によって利用され、アミン類や、脂肪を分解するために必要な胆汁酸を分解して発ガンを促進する物質に換えてしまうのです。最近の若い人々の大好物であるハンバーガーなどのファーストフードは悪玉菌が好む典型的な食事といえるでしょう。
   一方、善玉菌の好物は食物繊維を豊富に含む野菜、海藻、穀類などです。食物繊維は腸にとって非常に重要で、不足すると腸内に便が長時間とどまって、悪玉菌の増殖を招くことになるのです。


Fig.

   農林水産省の調査では、1960年における食肉消費量は約3キロ程度でしたが、35年後では14倍以上に増加しているそうです。穀物、野菜、魚中心の伝統的な食事から、肉食中心の食事への変化は、日本人の腸内環境にも大きな影響を与えているのです。私は30代のころ、1日に1.5キロの牛肉を40日間食べ続ける実験を自ら率先して行いました。肉食を続けることによって体に明らかな変化が現れました。体臭がどんどんきつくなり、皮膚が脂ぎってきました。肝心の便にも劇的な変化が認められました。黄褐色だった便は次第に褐色から黒ずんで、40日目では黒褐色(タールのような)の便が出てきたのです。その臭いはきつく、腐ったような強烈な臭いを発したのでした。おそらく、そのときの腸年齢は70代に達していたに違いありません。私が行った肉食実験は多少大げさかもしれませんが、野菜をほとんど食べず、インスタント食品やお菓子などの栄養が偏った食生活を過ごす人はたくさんおられるでしょう。腸の老化にストップをかけ、腸年齢を若返らせるために、バランスの良い食生活を送るように心がけましょう。


 
 

 じょうほう通信  No. 43

 


 配色に困った時に


   この記事を読まれている方の多くは、学会やセミナー等でポスターやスライドによる発表を行う機会があるかと思います。わかりやすい発表資料を作るために重要な要素の1つとして「色」があります。ポスターやスライドでは複数の色を使うことが多いかと思いますが、各色のバランスや発表内容等を考慮した配色はなかなか難しく、“色を決めるのに時間を取られて肝心の内容が・・・”なんてこともあるかもしれません。 そんな時にお勧めするのがAdobeのKulerです。以下のサイトを開いてみて下さい。

http://kuler.adobe.com/


 

   サイトを開くと何種類もの色のパレットが表示されていると思います。このサイトでは世界中の人々が作成したパレットを見たり、検索することができます(※1)。例えば「今度イネに関する研究成果を発表するけれど、資料の配色はどうしよう」といった時に、このサイトの検索ボックスに「rice」と入力して検索すると「rice」をイメージした色のパレットを表示してくれます(※2)。もちろん人によって「rice」に対するイメージは異なるため、好みの配色が見つかるとは限りませんが、配色が全然思いつかない時には大きな助けになってくれると思います。配色に困った時に使ってみてください。

※1:ユーザ登録すると独自のパレットを作成して公開することもできます。
※2:パレットを作成する時に作成者がパレットに関連するキーワードを登録するようになっており、このキーワードにヒットしたパレットが表示されます。

Kuler
Kulerサイト

   Kulerはweb版だけではなく、デスクトップ版(AIRアプリケーション)(図1)もあり、以下のサイトの『Kulerデスクトップのダウンロード』からダウンロードすることができます。

http://www.adobe.com/jp/products/kuler/

   デスクトップ版では、好みのパレットだけをドラッグして取り出し、デスクトップに置いておくこともできます。 (図2

   パレットの上で右クリックすることによって、各色のカラーコードを取得することも可能です。  図3の例ではクリップボードに”FF8233”という値がコピーされます。

(坂庭真悟、斉藤睦美)   


図



編集後記:  佐々木先生が世界で初めて成し遂げた「トランスジェニックマーモセットの作出」に関する論文はNatureの5月28日号に掲載され、翡翠の写真が雑誌の表示を飾ったのは記憶に新しいと思います。医療に直結する期待の大きな実験動物になりそうですね。 Nature著者インタビュー (http://www.natureasia.com/japan/nature/authors/interview-1.php) には佐々木先生の成功に至るお話が掲載されています。 お忙しい中ご執筆くださいましてありがとうございました。(Y.Y.)


連絡先:〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp