-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.5 No.8

■ 研究とバイオリソース No. 4:

・マメ科植物のゲノム研究

 

 

 田畑 哲之
 かずさDNA研究所 植物ゲノム研究部

■ べんの博士のうんちく講座

・連載 第8回 女はたまる。男はくだる。

■ じょうほう通信 No.42:

・グリーンIT

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2009/8/31


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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 

  研究とバイオリソース No. 4

 


 マメ科植物のゲノム研究

    田畑 哲之  かずさDNA研究所植物ゲノム研究部長


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マメ科植物の特徴

   マメ科植物は約700属、18,000種余からなる多様な植物群です。ダイズ、インゲン、アズキなどのマメ科作物は、イネ、コムギ、トウモロコシなどイネ科作物に続く重要な穀物として、世界の広い地域で栽培されています。その用途は、食料、飼料、油脂や醤油等加工品の原材料など多岐にわたっています。

   マメ科植物は、「環境への負荷が少なく持続可能な農業」に貢献する「共生窒素固定」の能力をもっています。共生窒素固定は、マメ科植物の根に作られる根粒という器官の中で、土壌細菌である根粒菌が、大気中の窒素からアンモニアを合成して宿主に供給し、その対価として光合成産物である炭水化物を受け取る相利共生の現象をいいます(図1)。マメ科植物は、共生窒素固定によって窒素源の少ない土壌で生育できることから、窒素肥料の大量投入による環境汚染の防止、窒素肥料の生産、運搬に要するエネルギーの節約に大きく貢献しています。そのため、イネ科作物や産業植物に窒素固定能力を付与することへの期待が大きく、その第一歩として共生窒素固定の基本的メカニズムと、関連する遺伝子の解明に向けて、国内外のたくさんの研究グループがしのぎを削っています。

図1
図1.マメ科植物の共生窒素固定

マメ科植物のゲノム解読

   マメ科植物は、その生態的、生理的、形態的な多様性を裏打ちするように、ゲノムのサイズや倍数性もさまざまです(表1)。 共生窒素固定など、マメ科植物特有の現象に関する遺伝子的研究は、ダイズ等の作物そのものではなく、生育の速さ、遺伝子の数、植物体のサイズ、形質転換(DNA導入)技術の有無などの点で、実験材料としてより適した「モデル材料」が使用されてきました。 代表的なモデルマメ科植物としては、ミヤコグサ(Lotus japonicus)とタルウマゴヤシ(Medicago truncatula)の2種類を挙げることができます。これらのモデル材料を使って、変異体の原因遺伝子の単離や機能解析など分子遺伝学的研究が行われ、2000年以降ミヤコグサは日本(かずさDNA研究所)、タルウマゴヤシは米仏英の合同チームによって、全ゲノム解読に向けた激しい競争が行われてきました。さらに、米国DOEのサポートによって、主要穀物であるダイズのゲノム解読が始まり、現在3種類のマメ科植物のゲノム解読が同時進行しています。その結果、2009年末には、全ての解読作業がほぼ同時に完了し、3種類のマメ科植物のゲノム全構造が明らかになる予定です。

 

表1
表1:マメ科植物のゲノムサイズ

ゲノム情報リソースの整備

   1ゲノムの塩基配列データからは、大量の遺伝子の構造、機能、位置情報が得られ、有用遺伝子の探索や比較ゲノム解析が行なわれています。さらに、配列情報を使うと容易にDNAマーカーを作製することができるようになり、変異原遺伝子の同定、単離が大きく加速しました。その結果、これまでに共生窒素固定関連遺伝子、マメ科植物特有の二次代謝産物合成に関わる遺伝子、耐病性遺伝子等が多数同定されています。
   一方、全ゲノム解読の対象となっていない多数の作物マメについても、塩基配列分析の高速化とコスト減少によって、大規模なDNAマーカーの開発や連鎖地図の構築が進められています。これらのDNAマーカーは、属を超えたゲノム比較やDNAマーカー選抜育種に利用できることから、多様なマメ科作物の分子育種に大きく貢献すると考えられています。
   マメ科植物のゲノムプロジェクトやDNAマーカーの情報は、以下のアドレスから入手することができます。

                         

 

サイト1

ミヤコグサ
http://www.kazusa.or.jp/lotus/






タルウマゴヤシ
http://www.medicago.org/

サイト2

ダイズ
http://soybeangenome.siu.edu/






ダイズ
http://soybase.org/

 

マメ植物ゲノム関連サイト


ミヤコグサのリソース

   ゲノム情報を活用して遺伝子単離や育種を行なうためには、さまざまなゲノムリソースやバイオリソースが必要です。通常、これらのリソースはそれを作製、あるいは採集した研究者が個々に維持、提供しているため、入手にあたっては個別にリクエストしなければなりません。ところが、ミヤコグサについては、宮崎大学がNBRPのサポートをうけて主に国内で開発、採集されたリソースを大規模に収集し、それらの維持、提供を行なっています(図2:LegumeBase http://www.legumebase.agr.miyazaki-u.ac.jp/)。 ゲノムリソースとしては、ゲノムライブラリー、cDNAライブラリー、バイオリソースとしては、主要な実験系統、2種類の実験系統間の交配によって作られた組換え自殖系統、108種の国内野生系統、EMSによる突然変異体などの種子、ミヤコグサと共生する根粒菌(Mesorhizobium loti)の変異体ライブラリーなどが整備されています。さらに、ダイズや野生ダイズ(Glycine soja)のバイオリソースも、LegumeBaseを通じて入手することができます。
   このように、ミヤコグサでは、大規模なゲノム解読プロジェクトとそれに付随する大規模遺伝子機能解析、そしてこれを支えるさまざまなリソースを収集し提供する態勢が整備されています。今後、他のマメ科植物についても同様の態勢が整えられることによって、マメ科作物の育種が加速することが期待されています。■


 

図2
図2.LegumeBase



 

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連載  べんの博士のうんちく講座 第8回

 


   女はたまる。男はくだる。


   「便の研究をしている辨野先生にウンチを調べてもらいたい」----最近の健康ブームにのって、私の研究室にもマスコミの取材が頻繁に入るようになりました。のっけから、臭い話で恐縮ですが、まず、そこで「鼻にした」ウンチの話をしましょう。

   厳重に包装されクール宅配便で送られてきた容器を開けたとたん、どう形容していいかわからないほどの強烈な臭い。石のようにコロコロで、数層に重なっているウンチです。日本で一番ヒトのウンチをみてきたと豪語する私でさえ、初めて目にするウンチでした。そしてその中身にも驚かされました。通常、健康な人間の便は半練状で、水分含量は80%前後。水分が70%でかなりひどい便秘ですが、そのウンチはなんと60%。さらに善玉菌がほとんどなく、悪玉菌が超優勢の驚異的な数字で棲みついていることもわかりました。

   その驚異的なウンチの主は一人暮らしの20歳の女性。彼女の食事は「お菓子しか食べない。あとはペットボトルのジュースかな」。生活は不規則で、お腹がすいたら、手近なお菓子だけを口にするそうです。なるほど、それでは便秘もするし、便意も感じなくなるわけだと思いました。このように若い女性のウンチを多くみてきて、わかった驚くべき現実は「臭くて硬い」ウンチがなんと多いこと! 今、若い女性の腸内環境には、劇的な変化が起きているようです。


Fig.

   一方、毎日コンピューターの前に座って運動不足、ストレスがたまって、たばこを吸う。食事といえば、高カロリーのスタミナ食。簡単に、短時間、しかも食べる時間は一定していない…。自分のことかと思われる男性が多いのではないでしょうか。いわゆる「お父さん世代のウンチ」はどうでしょうか?

   ある製薬メーカーの調査によると、家族の中で最もトイレの後が臭いのは、「中高年の男性」との結果が出ています。オヤジ世代の80%の男性が、家族から「トイレの後が臭い」と言われると答えているのです。このウンチの臭さは、悪玉菌が有害物質を発生させるからです。さらに、ストレスを感じている男性は、下痢の回数が多いといいます。いわゆる過敏性腸症候群です。毎日感じるストレスにより、大腸粘膜はヘトヘトに疲れ、傷つき、下痢が止まらないのです。体全体のリズムが崩れるとともに、水分吸収がうまくいっていないのです。


   「女はためる。男はくだる」とは現代人の生活状況を表す表現でしょうが、これは生活習慣病そのものなのです。今すぐ改善しなければとんでもないことになってしまいますよ。


 
 

 じょうほう通信  No. 42

 


 グリーンIT


   グリーンITと聞いて皆さん何を想像されるでしょうか?グリーンITとは、「IT機器の省電力化」「IT機器による省電力化」を行うことで、二酸化炭素の排出を少なくしようという意図が込められています。


 

「IT機器の省電力化」


   IT機器の省電力化は、文字通りIT機器が使用する電力を減らすことです。例えば遺伝研の系統情報研究室では、情報センターを運営するため、数十台のサーバやネットワーク機器を使用しています。これら一台一台が使用する電力を少なくすることが、IT機器の省電力化になります。系統情報研究室ではサーバの電力を抑える技術として、本連載でも紹介した仮想化技術(Vo4.12月号Vo5.1月号)等を使用しています。


「IT機器による省電力化」


仮想化

   これには二通りの意味があります。一つは、IT機器を使用することで、電力を減らすことです。例えば、クーラーの温度センサーが高性能になることで、細かな温度調整が可能になり、過剰な消費電力が削減されることなどです。もう一つは、IT機器を使用することで、二酸化炭素の排出を減らすことです。例えば、TV会議などがこれにあたります。TVやインターネット回線を使用して遠隔地同士で会議を行うことで、会議を行うために車やバスなどを使用して移動する必要が無くなり、余分な二酸化炭素の排出が削減されるということです。NBRPプロジェクトでは、MTA (Material Transfer Agreement)の電子化がこれに当たります。


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「IT業界の動向」


   京都議定書が発効したことで、日本は2008年から2012年までに、1990年を基準として二酸化炭素をー6%削減する義務が生じました。IT業界では、経済産業省がグリーンITイニシアティブを打ち出し、消費電力の削減を推進しています。2009年5月には、日本で初めてグリーンITを主題にした展示会が開催されました。その中から、データセンターについて紹介します。

   データセンターは、一箇所で大量のサーバを運用する施設です。ここでは、サーバの運用以外に使用される電力をいかに減らすかが問題になっています。特に問題とされているのが、サーバの冷却にかかる電力です。サーバを効率的に冷却する最新の方法に、アイルキャッピングがあります。アイルキャッピングとは、サーバを冷却する空気と、サーバの排熱を完全に分離することです。これにより、出展されたデータセンターは1.4〜2.0のPUE値を実現していました。 ちなみに理想的なPUE値は1.0になります。一般的なデータセンターは2.3〜2.5と言われています。

(渡邉  融)  

PUE値・・・Power Usage Effectiveness の略で、全消費電力をIT機器の
   消費電力で割った値。


 


  次号予告! 来月は、「 コモンマーモセット 」です。  




編集後記:  日本は国際競争の激しいゲノム研究で苦戦を強いられてきましたが、田畑先生のグループはミヤコグサの全ゲノム解読を単独で進めるなど、マメ科植物ゲノムの世界をリードしていらっしゃいます。かずさDNA研究所の副所長でもある先生は、データ公開やバイオリソースの共有化の重要性を早くから指摘しておられ、バイオリソースプロジェクトもサポートして下さっています。お忙しい中のご執筆ありがとうございました。(Y.Y.)


連絡先:〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp