-国内外のバイオリソースを巡る様々な問題や取り組みについて、毎月ホットな話題をこのニュースレターで紹介していきます-


BioResource Newsletter  Vol.4 No.3

■ リソースセンター紹介 No.22:

・ナショナルバイオリソースプロジェクト
  「細胞性粘菌」

 

 

 

  漆原秀子
  (筑波大学大学院生命環境科学研究科)

■ じょうほう通信  No.30 :

・Flexでデスクトップアプリケーションを作る

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2008/3/31  

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バイオリソース関連サイトは以下のサイトからご覧になれます。

NBRP http://www.nbrp.jp/
SHIGEN  http://www.shigen.nig.ac.jp/indexja.htm
WGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/
JGR http://www.shigen.nig.ac.jp/wgr/jgr/jgrUrlList.jsp
 

  リソースセンター紹介 No.22

 

 ナショナルバイオリソースプロジェクト
    「細胞性粘菌」

     漆原  秀子  教授
     筑波大学大学院生命環境科学研究科



粘菌

 

  1. 細胞性粘菌とは          
 logo [細胞性粘菌とは]
細胞性粘菌は落葉の下などの比較的湿った土壌表層に棲息している Dictyostelid と称される一群の微生物で、単細胞アメーバが飢餓ストレスによって多細胞化して胞子形成を行い、胞子の塊とそれを支える柄からなる子実体を形成することで特徴付けられます(図1)。 「ねんきん」と言うと平方メートルのオーダーにも大きく成長する変形体にカラフルな子実体が観察される変形菌(南方熊楠氏の研究で知られているのはこちらです)を思い浮かべられることが多いのですが、それは多核巨大単細胞の真正粘菌で、細胞性粘菌とは異なっています。 細胞性粘菌の子実体は単核の多細胞体で1〜5ミリメートル程度の高さになり、肉眼で何とか判別できる程度です。子実体形成の途中段階で形成される偽変形体と呼ばれるナメクジ形の構造は多くの種で移動性があり、英語では slug、日本語では移動体という名称が与えられています(図2)。子実体形成は無性発生ですが、性が存在し、マクロシストを形成する有性生殖過程も知られています。 胞子塊をしっかりした1本の柄が支える典型的な子実体を形成するDictyostelid属、枝分かれした柄をもつPolysphondilium属、柄が非細胞性で脆弱なAcytostelium属の3属に分類されています(図3)。


 


図 1.

図1. 細胞性粘菌の子実体(左)と胞子(右上)と柄(右下)の拡大写真。


 

図 2.

 図2. D.discoideum (キイロタマホコリカビ) の生活環が一目でわかる走査顕微鏡写真 (dictyBase写真集より)。 左下にあるのが移動体。

 

図 3.

図3. 細胞性粘菌3属の子実体。上部に示した系統樹の名前と対応している。

 


 logo [系統進化上の位置]
動物のようにアメーバ運動やナメクジ体で移動する時期をもつ細胞性粘菌ですが、セルロース性の柄や液胞化した柄細胞を形成する性質はごく植物的に見えます。 一方、「キイロタマホコリカビ」などという和名に象徴されるように、子実体には菌類のイメージがあります。 しかし、近年の分子系統解析やゲノムの比較によると、細胞性粘菌は真核生物の系譜で植物が分岐した後、菌類が分岐する前に分岐したとされています(図4)。「細胞性粘菌は動物?植物?」とのFAQに対しては、「動物でも植物でも菌類でもない独特の生物です」と答えています。


図4
図4. 細胞性粘菌の進化的位置を示す系統樹。


 logo [モデル生物としての有用性]
野外の環境ではバクテリアを餌としている細胞性粘菌ですが、最も広く使用されているDictyostelium discoideum の標準株は無菌培養が可能で(図5)、種々の精密な生化学的・分子生物学的アプローチや遺伝子操作が容易です。 増殖や運動が活発であること、胞子と柄細胞の2種類にしか細胞分化しないシンプルな多細胞体制わずか24時間で構築されること、細胞タイプの比率調節が柔軟なことなどから、細胞生物学、発生生物学、生物物理学、数理生物学など基礎科学のさまざまな分野でモデル生物として利用されています。また一方で、ヒトの病原遺伝子を数多くもつこと、病原微生物の感染宿主になる(図6)ことなども知られており、NIHによって医科学研究の重要モデル生物としてリストアップされています (http://www.nih.gov/science/models/)。


 


図 5.


図5. 細胞性粘菌の培養。
細胞性粘菌の培養には20℃〜25℃程度が適している。左写真のような簡易なインキュベーターを使用するが、夏でなければ室温に放置することも可。丸や角型ディッシュでの2員培養や発生、液体培地での振盪培養が詰め込まれている。他には顕微鏡(右上)とクリーンベンチ。

 

 


図 6.


図6.肺炎の原因となるレジオネラ菌(L)の感染。
食胞の中に取り込まれるが、リソゾームとの融合が妨げられるためそのまま増殖し、1日で細胞内を埋め尽くすほどに増えている。 Farbrother et al, 2006, Cell Microbiol. 8:438-456.

 

 

  2. 細胞性粘菌中核拠点の目指すもの     

 logo [実施体制]
細胞性粘菌のリソースは代表機関の筑波大学がD. discoideum遺伝子クローンについて、サブ機関の産業技術総合研究所が株について収集・保存・提供の業務を実施し、細胞性粘菌研究会から選出された外部運営委員と協力してリソースセンターとしての充実を図っています(図7)。



図7

図7. リソース整備の実施体制図


 

 logo [遺伝子リソース]
遺伝子リソースはEST解析の中心となった筑波大学に保存されているcDNAクローンの中から非重複のセットを再整列して保存する計画で、12,500個と予測されている遺伝子のうち、現状で約3,000の完全長クローンが96ウエルプレートに整列されています。残りの期間ですべての非重複クローンを整備する予定です。ポストゲノム解析に便利な扱いやすい細胞性粘菌の特徴を生かし、遺伝子セットを一括して使用する研究も始められています。

 logo [株のリソース]
米国ではNIHのサポートでコロンビア大学に細胞性粘菌ストックセンター(DSC)が設立されています。 しかし、これまで細胞性粘菌を使用していなかった(国内)研究者には情報が届きにくいこと、微生物、特に組換え体について搬送に問題が生じることなどがあり、国内研究者を主な対象として収集・保存と提供を行うことにしました。 DSCとは緊密に連携をとり、相互に補完しあう体制を構築していますのでDSCとNBRPリソースの和がグローバルな細胞性粘菌リソースのスタンダードということになります。 さらに、国内外の遺伝子クローンユーザーに対して破壊株などをフィードバックしてもらい、 遺伝子と操作株を組で揃えた質の高いリソースを整備することも目指しています。 経験のない方に対しても使用すべき株や培養方法等の相談に応じていますので、 是非 「セカンドマテリアルとして気軽に」 利用していただきたいと願っています。



 

 

logo 研究者へのお願い

  バイオリソースを使って研究をしている皆様にお願いがあります。
研究成果を論文として発表する際には、使ったリソースの情報を 必ず Materials & Methods や謝辞などに記載してください。 同時に、リソース入手元への連絡もお願いいたします。
  NBRPでは成果論文の登録サイトを開設しました。 以下のアドレスから簡単に情報を登録することができますのでこちらも是非ご利用ください。

http://rrc.nbrp.jp/


RRC

 

 

 

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  じょうほう通信  No.30

 Flexでデスクトップアプリケーションを作る

  前号では Flex、Flex Builder で作成したWEBアプリケーション(以降WEBアプリと呼ぶ)のサンプル (http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2008/2/sample.swf) を紹介しましたが Flex では WEBアプリ だけではなくデスクトップアプリも作ることができます。
  作成方法はWEBアプリの時と同様にFlex Builderを使用してドラッグアンドドロップ等の操作で作成することができます。
   サンプルとして画像をクリックするとWEBサイトを開くだけのシンプルなデスクトップアプリケーションsample.air を作成しました。


sample. air
図:sample.air

   作成したアプリには air という拡張子が付き、 AIR(Adobe Integrated Runtime) がインストールされた環境で実行することができます。 airは以下の環境で実行できます。

Fig.

アプリ作成者は実行環境である AIR と airアプリ を同時にインストールできるシームレスインストールという方法をユーザに提供することができます。(ただしこの方法はブラウザの種類やバージョンによっては動作しない場合があります。)

■ シームレスインストールはこちらから

http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2008/3/index.html

  ※ シームレスインストール が上手くいかなかった方は以下から個別にダウンロードしてインストールして下さい。 インストールの順番は「AIR」、「sample.air」 の順です。 (sample.airをダウンロードした際にファイル名が ”sample.zip“ となってしまった場合は ”sample.air” に変更して下さい。)

■ AIR(airアプリを実行するためのソフト)

http://labs.adobe.com/downloads/air.html

■ sample.air(今回作成したairアプリ):

http://www.shigen.nig.ac.jp/shigen/news/n_letter/2008/3/sample.air

  Adobeのサイト(http://www.adobe.com/jp/devnet/air/gallery/)では様々なAIRアプリがダウンロード可能です。 AIRコンテスト(http://www.adobe.com/jp/special/air/contest/)も開催されているので自分で作成したAIRアプリを投稿してみてはいかがでしょうか。

(坂庭 真悟)  



logo

 


編集後記 :  漆原先生には第2期ナショナルバイオリソースプロジェクトであらたに採択された細胞性粘菌の話題を提供していただきました。昨年の分子生物学会のパネル展示場で、単細胞が集合する様子を動画で見せていただき感動しました。なんとも不思議な生物です。先生によると扱いがそれほど難しくないということですので、研究者が大腸菌感覚で細胞性粘菌を使うという日も遠くないかもしれませんね。 ご寄稿ありがとうございました。
遺伝研前の染井吉野桜が満開です。 所内の八重桜はこれからが見頃です。(Y.Y.)

連絡先 : 〒411-8540 静岡県三島市谷田1111
国立遺伝学研究所・生物遺伝資源情報総合センター
TEL 055-981-6885 (山崎)
E-mail brnews@chanko.lab.nig.ac.jp